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【視覚障害者と野外音楽フェス】横浜で開催された視覚障害者向けスペシャルツアーに参加してきました!

バリアフリーテントの表示があるテントの前で、視覚障害者スペシャルツアーのプラカードを持った笑顔の大野さんと藤原さん。

野外の音楽フェスと聞くと、私たち視覚障害者には、ちょっとハードルが高く感じてしまいます。

そんな視覚障害者に向けて、野外音楽フェスを巡るツアーが2023年11月4日に横浜市の象の鼻パークで開催されました。

フェスの名前は「ホッチポッチマーケット&ミュージックフェスティバル」。そのフェスの中で実施された「視覚障害者向けスペシャルツアー」。参加者から「久しぶりに楽しかった!」という声が聞こえてきたこのツアーが一体どんな様子だったのか、弱視のライターがレポートしていきます。

野外音楽フェス。ガイド初心者、いきなり声が聞こえないハプニング

「みんなが打ち解けるための時間なのに、全然声が聞こえない!」

フェスを楽しむために集まった私たちは、早くも壁にぶち当たっていました。ツアーで視覚障害者をガイドする11名のうち、6名のガイドボランティアは、全員近くの大学に通う大学生。ほとんどの人が視覚障害者と話すのが初めてでした。

ガイドボランティアの男性Aさん「ボランティアの経験が就活に活かせるかなと思って、先輩に誘われて参加しました。初めての誘導でめちゃくちゃ不安です」

ガイドボランティアは全員、ツアー直前に簡単な誘導研修を受けて、介助や説明の仕方を習ってからツアーに臨んでいました。

早速参加者を駅から会場まで誘導していきますが、お互い初対面で硬い雰囲気です。会場到着後に自己紹介を始めましたが、周りの音楽でお互いの声が聞こえません。

インターンの大野さん「ツアーの開始時間も迫っていたので、企画担当者だけ拡声器で自己紹介とご案内をして、あとは隣り合った数人ずつの自己紹介にしました。次回は方法を工夫したいと思います」

バリアフリーテントに集合するツアー参加者とガイドボランティアの皆さん。

今回私たちが参加したツアーの名前は、「ホッチポッチ マーケット&ミュージックフェスティバル 視覚障害者向けスペシャルツアー」。学生インターン大野さんと藤原さんが企画しました。音楽フェスの会場は、横浜港の大桟橋近くにある「象の鼻パーク」です。

ホッチポッチとは英語でごちゃまぜという意味で、アーティストもお客さんも多様な人たちに集まってもらいたいという想いで、この名前になりました。様々な音楽ジャンルが楽しめ、バリアフリーの取り組みも積極的に行っている音楽フェスティバルです。

ツアーが行われた2023年11月4日は快晴で最高気温25度。初夏のような汗ばむくらいの陽気でした。

参加した視覚障害者は11名。ガイドは、5名のガイドヘルパーと主催者側のガイドボランティア6名。さらにツアーを企画した学生インターン大野さんと藤原さんも同行します。

「視覚障害者向けスペシャルツアー」のプラカードを持った藤原さんを中心に移動する、参加者とガイドボランティアの皆さん。

アーティストの手足の動きも言葉でガイド

最初は不安なスタートでしたが、ステージを巡るうちに楽しそうな雰囲気に変わり、参加者とガイドボランティアは徐々に打ち解けられたようです。

参加の視覚視覚障害者と笑顔で会話をする学生インターン大野さん。

ツアーは1時間半という限られた時間の中で、ジャンルの異なる4つのステージを巡ります。

ツアーを企画した大野さんと藤原さんが、出演するアーティストについて紹介します。ガイドヘルパーやガイドボランティアは、視覚障害者の隣でパフォーマンスや周りの様子を伝えます。

ガイドボランティアのみなさんは、参加していたガイドヘルパーを参考にしていました。アーティストが何をしているかだけでなく、具体的に手足をどう動かしているかも細かく説明しています。それを見て大野さんと藤原さんも勉強になったと言います。

藤原さん「見えていない人にどこまで説明すればいいか想像できなかったのですが、一緒に参加したガイドヘルパーの方が説明しているのを聞いて、そこまで細かく説明していいんだな、と勉強になりました」

フェス内で演奏をするstyle-3!の皆さんと、手拍子をしている観客の様子。

ツアー中に見たステージのひとつ、「style-3!」は体を反らしてブリッジをしながらバイオリンを弾くなど、アクロバティックな演奏が魅力のグループでした。学生のガイドボランティアが、演奏を聴いているだけでは想像できないパフォーマンスをしっかり言葉で伝えます。

神奈川県から来た視覚障害者のCさんは参加後に、「バイオリンとコントラバスのユニットがとても面白かった。パフォーマンスもよくわかって楽しめました!」と話してくれました。

特に参加者に好評だったのが東京パラリンピックでも注目された、わたなべちひろさんの弾き語りステージです。その場にいる全員が真剣な表情で聞きいっているのが印象的でした。

千葉県からきた男性Bさん「もう何年もこういうイベントに来ていませんでした。こうして色々案内してもらえて、めっちゃ楽しかったです!もう少しゆっくりステージを回りたかったです」

全体的にフェスを楽しめたという声が聞かれました。しかし、もっと長時間楽しみたいと思っても、今回はツアーの枠でしか周れないことで、物足りなさを感じていた方もいたようです。

ボランティアの男性Dさん「知らない曲もあって説明が難しい部分もありましたが、参加した視覚障害者の方がすごく詳しくて、いろいろ教えてもらえて自分も楽しめました。」

音楽という共通の話題があって、ボランティアやガイドヘルパーも参加者と話しながらいろいろな音楽を一緒に楽しめたようでした。

インタビュー「視覚障害者向けスペシャルツアー」は来年度も続けたい

ホッチポッチマーケット&ミュージックフェスティバルを主催している、NPO法人アークシップの代表長谷川さん、2023年の視覚障害者向けスペシャルツアーの企画と広報を担当した学生インターンの大野さん、藤原さんにお話を聞きました。

フェスの本部テント前で話す、NPO法人アークシップ代表の長谷川さん。

ーホッチポッチマーケット&ミュージックフェスティバルの視覚障害者向けスペシャルツアーはどのように始まったのでしょうか。

長谷川さん このフェスを主催しているNPO法人ARCSHIP(アークシップ)は、「音楽でこの街とあのひとをもっとハッピーにしたい!!」をスローガンに活動しています。私たちが主催するイベントの中でも「ホッチポッチマーケット&ミュージックフェスティバル」は、最大規模のフェスです。横浜港開港150周年の2009年に第1回を開催しました。

障害があってもなくても素敵なミュージシャンはたくさんいる。そういう人たちに出演してもらおうと考え、ジャンルレスなフェスとしてスタートしました。ただ、観客は健常者ばかりだと気付き、観客もインクルージョンで開催できないか……と、試行錯誤しながら発展してきました。

学生インターンが中心になって、様々な障害者の方に直接会ってヒアリングをしながら、一緒に楽しんでもらうための企画を進めてきました。視覚障害者向けスペシャルツアーも当事者の方からのアドバイスがヒントになって始まりました。前回の2023年が2回目の実施です。

ー2023年の視覚障害者向けスペシャルツアーを担当した学生インターンの大野さんと藤原さんにお聞きします。感想や、難しかったことなどはありましたか?

藤原さん 事前に誘導の練習や視覚障害体験などもしました。ただ、晴眼者が急に目隠しをするのと、普段生活している視覚障害者とは違うので、実際のガイドの場面では「もっと早く歩いていいんだ」などの気付きもありました。

あとは、広報が難しかったです。フェスのサイト内で発信したり、SNSに投稿したりもしたのですが、申し込みが増えなくて、アドバイザーの視覚障害者の方のネットワークに頼ることになりました

大野さん 広報の面では企画内容も含めて「押し付けになっていないか」という不安がありました。でも、実際当日参加した方が、「本当に感動しました。聴けてよかった!楽しかった!」と話してくれました。やってよかったなと思えました。

ー今後に向けて、どのようにしていきたいですか?

長谷川さん このフェスでは、学生インターンに企画や広報の大部分を任せています。ただ、そうすると毎年メンバーは変わっていってしまいます。特にバリアフリー企画については、開催して分かったことを、どう次年度へ引き継いでブラッシュアップするかの課題があります。

視覚障害者向けスペシャルツアーは今後も続けたいので、学生以外の専任スタッフを置くかも検討する段階かなと感じています。ただ、学生インターンにはイチから企画する楽しさを体験してほしい気持ちもあるので、様々な角度から考えていきたいです。

フェス本部のテント前を歩く、視覚障害者とガイドヘルパーの皆さん。

最後に

ツアーの中では、キッチンカーの配置がわかる触地図を作ったり、見られるステージが違う2つのコースを考えたりと、企画した学生インターン2人のたくさんの工夫が見られました。

弱視である私がフェスなどの音楽イベントに行きたいと思っても、辿り着いて会場を歩くだけで精一杯。パフォーマンスや出店を楽しむ余裕がないのが正直なところです。周りの盛り上がりについていけない気さえしてしまいます。そんなとき、ガイドヘルパーが一緒に巡ってくれるツアーがあるだけで、ちょっと行ってみようかなというきっかけになります。また、視覚障害者と関わったことがない学生さんが関心を持ってくれるきっかけになっているのを見て、とても嬉しくなりました。

今後、よりたくさんの野外イベントに視覚障害者をはじめとした障害者が当たり前に参加できる、そんなきっかけになれば素晴らしいなと感じました。

認定NPO法人ARCSHIPのWEBサイトはこちら(外部リンク)
ホッチポッチマーケット&ミュージックフェスティバルのWEBサイトはこちら(外部リンク)

写真提供:認定NPO法人ARCSHIP
取材・執筆協力:弱視のライターWilly
取材・編集協力:aki

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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