こんにちは、Spotlite運営メンバーの三輪瞭です。
いくつか記事の中には登場していたのですが、初めて自分で記事を投稿しますので、改めて簡単に自己紹介します。
僕は網膜色素変性症という障害がある視覚障害者です。今年の4月から新卒としてSpotliteを運営する株式会社mitsukiに入社しました。大学では福祉系の学科に進み、IT企業やコンサル系の会社などのインターンシップに参加したこともあります。
入社して半年以上経ち、任せてもらえる仕事が増えてきて、周りの方に助けられながら楽しく働いています。今後も視覚障害がある僕だからこそできることを一つ一つこなしていき、「視覚障害があっても社会に価値を提供できるんだぞ」ということを示していきたいと思います。
では、ここから本題です。今回は僕と同じ障害のある美容師、三好直人(みよしなおと)さんのことをご紹介します。
三好さんとの出会い
三好さんは網膜色素変性症によるロービジョンで、知人の紹介により、昨年出会いました。高校卒業後、専門学校で美容師の資格を取ったあとヘッドスパ専門の美容師として働いています。
しかし三好さんに話を聞くと、「ずっとヘッドスパ専門の美容師として働きたいわけではない。違う分野の仕事をしてみたい、自分の可能性を広げたい」という強い思いを語ってくれました。僕は三好さんの気持ちに心が動かされ、一緒にできることを考えるために定期的に会うことになりました。
三好さんの見え方
三好さんは高校1年生の時に網膜色素変性症と診断されました。右目はほとんど失明に近い状態で、左目は周辺の視野が欠けていて、中心視力は0.3程度です。
中学生の頃は、暗い場所がなんとなく見えづらいと感じていた程度で日中は問題なく生活できていましたが、高校生になると視力が下がり、視野が欠けているということに気づいたそうです。
三好さんは、「周りの友人には目が見えづらいことは隠して生活していました。ずっと一緒にいると、自分の変化に友人が気づいてしまうという思いから、修学旅行には行かないようにするなどとにかく障害を隠すことに必死だった」と話してくれました。
僕も中学生の頃は周りの友人に目が悪いことを隠して生活していたので、とても共感し、話が盛り上がりました。
美容師という仕事を選んだ理由
どうして美容師を目指したのかを聞くと、「かっこよかったから」という答えが返ってきました。
美容師を目指していた当時、この病気が失明するリスクのある病気だとは思っておらず、自分がやりたいことや憧れていることを一番優先したいと考えていたそうです。
美容師と聞くと視覚障害者には難しい職種というイメージがあるかもしれませんが、三好さんは自分がなりたい姿を貫いた結果、美容師の道を選んだのです。
苦労した試験勉強
専門学校時代、特に苦労したのが国家試験に向けての試験勉強だったそうです。
三好さんは当時を振り返り、「模擬テストでは回答用紙の空欄に焦点を合わせることが難しく、普通なら1時間で終わる内容を2時間かけて行なっていました。また、高校生の頃から色の識別が難しく、色彩に関する勉強がとても苦労しました。でも、信頼できる友達に自分の障害を打ち明けて、勉強で分からない部分のサポートをしてもらっていました」と話してくれました。
これまで、障害を人に打ち明けることに抵抗を持っていた中、三好さんにとって大きな転換期になったようです。そして、無事、国家試験に受かり美容師として働くことになります。
美容師としての課題
何度か三好さんとお会いする中で、仕事で直面している課題やモヤモヤした心情を話してくれました。
三好さんは見え方の特性上、周りの美容師と同じようにハサミを使ってお客様の髪をカットすることができません。そのため、ヘッドスパ専門の美容師として働いてきました。さらに、他にできることはないかと模索しながら、接客以外の仕事にもチャレンジしているそうです。
例えば、美容院にはお客様の予約や売り上げ管理などの業務があります。しかし、これらはすべてパソコンを使わないと難しいのです。
今までほとんどパソコンに触れてこなかった三好さんは、視覚障害者向けのパソコン教室に通い、読み上げソフトを使った文章の書き方やエクセルソフトの操作を学びました。
しかし、職場のパソコンはロービジョン向けの拡大ソフトや音声読み上げソフトが内蔵されておらず、三好さんはパソコンで業務を行うことができませんでした。
iPadのレクチャーで
そんな話をしていると、三好さんから「三輪くんはどのように働いているの?」と質問してくれました。そこで、僕は自分の働き方や仕事で使っているツールを紹介しました。
僕は主にiPhoneとiPadを使っており、これでメールのやりとりやスケジュール管理、エクセルなどの資料作成まで全ての業務を行なっています。iPadには外付けのキーボードを購入して、文字入力を行っています。こうすることでパソコンのように操作でき、作業効率が格段に上がります。
三好さんは僕の話にとても興味を持ってくれて、その場でiPadの活用法をレクチャーすることになりました。
使い方を教えると、「見えやすい!これなら僕も使えるかもしれない」という声が聞けるようになりました。
iPadはパソコンとは違い、初めから読み上げ機能がついていたり、文字の拡大や背景色の変更などを直感的に操作することができるので、ロービジョンである僕たちにとって、使いやすいものだと感じます。
数日後、三好さんから「三輪くんが使っていたiPad僕も買ったよ!」という連絡がありました。しかも僕が持っているiPadよりグレードが高い最新機器で、なかなか値が張るものでした。さすがの行動力です。
そこから一緒に練習を積み重ねていき、着実にできることが増えていきました。
ここで具体的なレクチャー内容をいくつかご紹介します。
まず、三好さんは黒い背景に白い文字の方が見えやすかったので、画面をデフォルトで白黒反転するように設定し、目と音声を使い分けて操作できるようにしました。
これにより、今まで難しかったエクセル操作やデータの管理が前よりスムーズにできるようになりました。
さらに、キーボードの特定のボタンにシールを貼り、タッチタイピングができるように工夫しました。
仕事の幅が広がった
後日、美容院に直接三好さんが交渉し、無事職場でiPadが使えるようになりました。
オーナーさんが障害に対してとても理解があり、「少しでも三好くんが働きやすくなるのであれば」ということで、すんなり了承されたそうです。
これにより、今まで難しかった予約管理や出勤簿の管理ができるようになりました。
三好さんのこれから
iPadにはまだまだ色々なアプリや機能があります。三好さんに適した便利な機能に触れる機会を定期的に作り、新しい切り口から仕事の幅を一緒に広げていければと思います。
今まで目が見えにくいということでパソコンの業務を諦めていたのですが、今回iPadの操作を覚えたことで、自分にもできるという自信につながったそうです。
今後も一つ一つできることを増やしていきながら、障害にとらわれず、ヘッドスパ以外の仕事にもチャレンジしていきたいとのことでした。
僕と三好さん、それぞれの職場での工夫を共有しながら、働きやすい環境を整えていきたいと思います。
最後に
三好さんはヘッドスパ以外の仕事にも挑戦したいという気持ちでiPadのレクチャーを受けましたが、もちろんヘッドスパのプロです。ヘッドスパに対するこだわりや知識がたくさんあり、私が体験すると日頃の疲れが吹っ飛びました。本当に気持ちよく、ぜひ皆さんにも受けてほしいです。
見えにくさのある美容師が、ヘッドスパ専門として働くということは、視覚障害者の職業の中で一つの選択肢になっていると感じます。
視覚に障害があることで、できないことが出てくる側面がある一方、少しの工夫でできることが増えることを実感しました。
テクノロジーの発展により、私たちの想像もつかないような便利な製品やサービスがどんどん生まれてくるでしょう。
障害というのは環境のミスマッチから起こることで、その人にあった環境を整えさえすれば格段にできることが増えていきます。
今回の三好さんは、まさにその一例です。
今までのやり方にこだわる必要はなく、その人にあった働き方を自由にカスタマイズする柔軟性が大切だと思います。これからも、僕自身の経験を踏まえながら、視覚障害者が働きやすい世の中になるための一歩をお伝えしていきます。
今回の記事がこれから働く視覚障害者や家族、雇用主など、一人でも多くの人に届き、励みになれば幸いです。
三好さんが働く美容室
大田区|雪が谷大塚の美容院・美容室
koo-rin(クーリン)
電話:03-5499-2445
営業時間:平日・土・日・祝日9:00~19:00
最終受付〔カット〕19時 /〔カラー&パーマ〕18時
定休日:年中無休
住所:東京都大田区南雪谷2-15-2 好屋田中ビル2F
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