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いよいよスタート!ドラマ『ラストマン 全盲の捜査官』への期待を、視覚障害者で福山雅治ファンの小林さんが語る

明るい階段の前でスーツの上着を整える男性

「助けるんじゃない。ともに戦うんだ。」

いよいよ4月23日、日曜日夜9時から放送される連続ドラマ『ラストマン 全盲の捜査官』(外部リンク・TBS系列)には、こんなキャッチコピーが掲げられています。全盲のFBI捜査官が日本の刑事とバディを組んで事件に挑む話で、主演を福山雅治さんと大泉洋さんが務めます。

視覚障害者で福山雅治さんのファンである小林直美さんに、ドラマへの想いや、日常生活で当事者として感じていることを聞きました。

小林直美さん 略歴

小学5年生の視力検査で、左目の下半分が見えていないことがわかり、先天性緑内障が発覚。20歳の頃から右目にも中心暗点が出て、現在では視野の右上だけが見えているロービジョン。

視力は、矯正で0.1以下。視覚障害者のプロ集団「ブラインドライターズ」に所属し、文字起こしの仕事を中心に活動している。2009年に観た歌番組をきっかけに福山雅治さんのファンとなり、ライブにも足を運んでいる。

小林直美さん(ご本人提供)

小林さんは、Spotliteに2回目の登場です。前回の記事はこちら。
「ライブに行きたいという気持ちが色んな葛藤を超えました」小林直美さん | Spotlite
(内部リンク)

「助けるんじゃない。ともに戦うんだ。」

『ラストマン 全盲の捜査官』は、TBS系列で2023年4月23日、日曜日から放送されるドラマです。どんな難事件も最後には必ず解決させる「ラストマン」こと皆実広見みなみひろみ(福山雅治)と、犯人検挙に日々奮闘する刑事の護道心太朗ごどうしんたろう(大泉洋)がタッグを組んで事件に挑みます。

本作のキャッチコピーは「助けるんじゃない。ともに戦うんだ。」です。自分ができないことは周りに助けを求めながら動く主人公の皆実は、これまで描かれてきた視覚障害者のヒーロー像と少し異なるかもしれません。その姿に、小林さんは期待しています。

小林さん「映画やドラマでの視覚障害者は、すごい能力を持ったスーパーマンのような描写をされがちです。正直、私はその描き方にどこか引っかかっていました。

現実で生きる人は、視覚障害者も晴眼者もスーパーマンではなくみんな“普通の人”。“普通の人”たちがお互いにできないことを助け合うところが見られたら嬉しいですね」

左右から伸びた男性二人の手の写真。

『ラストマン』の根底に流れるテーマは「多様性」と「寛容さ」だと、脚本家の黒岩勉さんがコメントしています。

製作陣は、視覚障害者に取材する機会を設けました。編成プロデュースの東仲恵吾さんは、取材の中で「困ったら躊躇なく手助けを求めるし、そのことに心から感謝する」という言葉が強く印象に残ったそう。その言葉から「一人でなんでもできるスーパーヒーローではなく、周りの力も借りて事件を解き明かしていく“新時代のヒーロー”にしよう」と、皆実のキャラクターが作られていきました。

引用:番組ホームページ 放送前コメント(外部リンク)

小林さん「無理に、自分と違う意見を理解したり、受け入れたりする必要はないと私は思っています。かと言って、過度に反応して『それはおかしい』と言うのではなく、視覚障害者に対しても『そういう人もいるんだね』くらいでいてもらえるといいんじゃないかなと思います。それも、多様性や寛容さのひとつではないでしょうか」

「やる」と言ったら見守って

日常で困っている視覚障害者を見かけたとき、どうしたらいいかわからず通り過ぎてしまうこともあるかもしれません。しかし小林さんは、困っていないときでも声を掛けてほしいと言います。

小林さん「あくまで私の考えですが、声をかけてもらえたら嬉しいです。

でも見知らぬ人に声をかけるのはハードルが高いですよね。それなら、『何かしたい』と思ってくれていること自体が嬉しいので、見守ってもらえるだけでも。

見守っていて危なそうなときに『何か困っていますか?』『何かお手伝いしますか?』とか、声をかけてもらえるとさらにありがたいですね」

赤いハートが書かれた小さなカードがヒモに留められている写真。

一方で、助けてもらうことが、自立の妨げになってしまうことがあるのも難しいところです。当事者として、小林さんはリアルな思いを伝えてくれました。

小林さん「親切心でやってくれるのはわかるのですが、必要以上に気を使われるのは嫌だなと思います。視覚障害と関係のないことまで助けてもらうのは、私の自立につながらない場合もあるので……。

例えば以前事務の仕事をしていたとき、自分でやろうと思っていたことを、いつも別の社員さんがやってくれていたことがあります。

その会社では、コピーするときに自分の部署のコピーカードをコピー機に置く決まりがありました。たくさん部署があったうえに、判別方法が文字だけだったので、自分の部署のコピーカードを見つけるのが難しかったのですが、何とか自分でできるようにしたかったのです。

あるとき、触るだけで他のカードと区別できる印をつけました。『この印があれば自分でも探せる!』と思っていたのですが、カードを順番に触っていると、いつも近くを通った人が取ってくれるのです。

親切にしてくださるのはありがたいのですが、自立のためにもできることは自力でやりたいと思っていました。

自分なりに工夫して1人でも動けるようにしているので、私が『やる』と言ったことはひとまず見守ってほしい思いがあります。そういった点がドラマでどのように描かれるのか、注目しています」

視覚障害者が登場する映像作品への期待

これまでも視覚障害者が主人公の映像作品は数多く制作されてきました。

例えば、映画『見えない目撃者』(外部リンク)。小林さんも当事者として協力した作品です。自らの過失で、弟と自身の視力を失った元警官の浜中なつめが、“目撃”した誘拐事件の解明に踏み込んでいく話です。なつめは視覚以外の感覚が並外れて優れているうえ、警察学校で培った判断力と持ち前の洞察力があり、これらを使って事件解明に迫っていきます。

このように、私たちが憧れるような能力を持つ主人公がいる一方、日常を描いた作品もあります。弱視で盲学校に通う赤座ユキコと、ヤンキーで世間を疎む黒川森生の恋愛模様を描いたドラマ『恋です!ヤンキーくんと白杖ガール』(外部リンク)です。ユキコと出会って社会の「フツウ」が何かを考えるようになった黒川。世の中にあるさまざまな生き方を知るにつれて、ユキコへの愛を深めていく話です。

Spotliteでは2021年の放送当時、座談会を実施しました。
『恋です! ヤンキー君と白杖ガール』座談会 視覚障害者絶賛とそのワケ | Spotlite
(内部リンク)

今後、視覚障害者が登場する映像作品に期待することはどんなことでしょうか。

「福山さんが演じる皆実は全盲で、映像作品では同じように全盲の主人公が多い印象を持っています。でも、視覚障害者にはロービジョンの人も多いのです。ロービジョンは本当に多様なので、映像作品にする難しさもあるとは思いますが……ロービジョンを扱った作品も増えたら嬉しいです」

福山さんの出る『ラストマン』は、音声だけでなく映像も楽しみます

小林さんは普段、ドラマは映像を見ずに、音声だけで楽しんでいます。しかし福山雅治さんが出演するドラマや映画は、映像も見られるよう工夫するそうです。

「普段は音声ガイドも使いながら、主に耳で聞いて作品を楽しんでいます。でも福山さんが出る映像作品は別。目でも楽しみたいので、視野に入るサイズのスマホで見たり、視野の広さに合うよう調整したタブレットを使ったりして観ています」

タブレットを操作する女性の写真。

全盲の人たらしFBI捜査官と、孤高の刑事の凸凹バディ。お互いを助け合いながら“無敵な2人”になっていく姿が、どう描かれるのか楽しみです。

「福山雅治さんと大泉洋さんのコンビがNHK大河ドラマ『龍馬伝』ぶりに観られるのが楽しみです。ドラマ内では最初、皆実と護道は反発しあうみたいですけどね。

バラエティ番組の福山さんと大泉さんの掛け合いはめちゃくちゃ面白いですし、昨年の紅白歌合戦では、司会の大泉洋さんが、トリを務めた福山さんの曲紹介をする流れも感動的でした。ドラマでも、2人の関係性を垣間見ることができたらいいですね」

Spotliteでは、今後も『ラストマン 全盲の捜査官』や視覚障害者に関する発信をしていきます。

スーツの袖口を整える男性の写真。

(アイキャッチ写真、写真素材:Unsplash)※注釈のあるものを除く

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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