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ストーリー

視覚障害者の私が、大手通信キャリアの採用担当者として働いて感じること

秋の公園でほほ笑む村竹さん
記事内写真撮影:Spotlite

レーベル病の当事者が、採用の仕事に就くまで

みなさん、こんにちは。村竹陽太と申します。

私は視覚障害の当事者で、現在は通信業界の会社の総合職として、障害者採用の仕事をしています。今回は、私の障害や働く環境、採用の仕事を通して感じることを紹介したいと思います。

私はレーベル病の視覚障害者で、視力は両目ともに光弁です。光覚弁とは、明るさがわかる程度の見え方です。私の場合、夜になると街灯や自動販売機に気付けるので明るさが分かるだけでも不安は少ないです。また、スポーツが好きで、陸上競技や水泳に取り組んできました。

学生時代の就職活動では、ほとんどの企業に「仕事を用意できない」という理由で断られていました。そこで、卒業後は職業訓練校へ通いながら、自分が活躍できそうなふたつの職種に絞りエントリーをすることにしました。具体的には、職業訓練でのエクセルの学びを生かした「分析」と、パラスポーツを通して様々な障害者と出会ってきた経験を生かした「障害者関連」の仕事です。その時期に、障害者採用に力を入れようとしていた現在の勤務先が、障害者採用業務で求人を出していたので、縁あって入社できました。

担当業務は採用だけでなく、入社後の障害者とその上長との面談もあります。障害者を受け入れている部署側の意見を聞けるのがこの仕事の面白い点です。

意外だったのは、障害者だけでなく、受け入れ部署も悩みを抱えていることでした。例えば、人事異動。採用活動では受け入れ組織に面接へ入ってもらうことで、人柄を見てもらうこともでき、比較的スムーズに受け入れてもらえます。一方で、人事異動では新しい受け入れ想定組織と障害者本人の面識がないことがあり、調整が大変なようです。

笑顔でパソコンを操作する村竹さん
パソコンは音声操作で使用しています。

PowerPointではなくWordを使うことで業務スピードアップ

働く環境としてはスクリーンリーダーソフトのPC-talkerとJAWS、点字メモ機を購入してもらい、設備を整えています。ですが、最も助かっているのは提案資料をWordで作成させてもらっていることです。

総合職業務では、課題を見つけ解決の提案をし、業務サイクルを回していく必要があります。Wordであれば視覚障害があっても作成しやすく、スピード感をもって業務を回すことができるので、提案という目的に対し、手段として私にとって効率的なのは、PowerPointよりもWordです。

また、決済の申請やデータ入力などは、一般職業務を担ってくれている派遣社員さんへ依頼しています。当初は早く依頼を済ませてしまおうとして、「村竹さんの依頼はわかりづらい」といわれることが多かったので、改善するために勉強しました。中川路亜紀さんの著書『あなたのメールは、なぜ相手を怒らせるのか?仕事ができる人の文章術』は私のバイブルです。ちなみに、点字や音声データなどで本を提供しているサピエ図書館の点字図書で見つけた本です。

パソコンのキーボードを打っている手元
キーボードは扱いやすいものを使用しています。

障害者採用で大切なのはマッチング

続いて今の仕事について詳しく説明します。採用業務は大きく次のような流れで行っています。

  1. 昨年度の採用活動を振り返り、次年度の採用計画を立案
  2. 母集団形成
  3. 選考
  4. 内定者のフォロー

なかでも私は障害者採用を担当しているので、ナビサイトの掲載内容作成とエントリー者の管理、人材紹介会社の対応をしています。

障害者採用で特に意識していることは、「自社とマッチする人材かどうか」です。企業側が求めている人物像や提供できる仕事・環境が、求職者の求めているものとマッチしているかを見るということです。障害者採用では、障害特性も合わせて確認します。

例えば募集職種。SEとして何かを作るプログラマーになりたいと考えている学生がエントリーしてきても、希望する業務の提供が難しければ、採用には至りません。

また、働く環境についてもマッチングは大切です。障害特性として環境の変化に対応することが難しく、同じ部署で定型業務を求めている場合、定期的な人事異動のある当社では、希望する環境を提供するのが難しい場合があります。

私も就職活動中、面接を受けた企業でミスマッチを感じたことがあります。ある企業の営業事務職の選考を受けたときです。

その企業では、お客様の状況によってはスピード感の持ったPowerPointの資料作成が求められるとのことでした。仕事の経験がなく、目の見えない私にとって、スピード感を持ったお客様向けの資料作成は難しいことが予想されました。仮に入社していたとしても、仕事をうまく進められず苦労していたかもしれません。

私がこの企業とマッチしなかった理由は、業務で求められていることが私の特性とは合わなかっただけのことです。同じ職種でも人によってはマッチする可能性もあり、活躍している視覚障害者も存在します。

入社前は自身が就職活動で苦労していたこともあり、どんな障害の人でも受け入れられるようにしたいと考えていました。しかし、様々な障害当事者の学生とコミュニケーションを取る中で、その考え方は変化していきました。

採用活動は採用を決めたその時だけでなく、学生にとっても企業にとっても長い期間影響を与えます。そのため、入社後のことも考えて、学生を見るようになりました。

満面の笑顔の村竹さん
提供できる業務内容と障害特性のマッチングを重視しています。

入社意欲を感じられる志望動機を聞きたい

就職活動をしているときは、障害の内容や程度によって有利・不利があると思っていました。企業の受け入れによって、有利・不利は実際にあるのでしょう。一方で、障害の当事者も自分がどんな仕事ができるのかイメージがついていることも大事だと感じます。

障害者採用で学生とコミュニケーションを取っていると、「とりあえず事務の仕事で探しています」という回答をよく聞きます。

一方、「会社の事業を通して何をしたいのか、どんな課題を解決したいのか」という入社への強い意欲を感じる志望動機を語る学生も存在します。やはり、後者の方が評価しやすく、入社後の配属も考えやすいと感じます。

障害が重い場合、配属先との受け入れ相談や環境を整えるのは大変です。しかし、自社に対して熱意を持ってくれる人を受け入れる努力をするのが、障害者採用担当の仕事であると考えていますし、やりがいだと思うのです。ですから、障害状況によっては難しいとは思いながらも、応募者には企業への志望動機をしっかりと語っていただきたいなと思うのです。

採用の仕事のやりがい

私にとって、採用の仕事でのやりがいは2つあります。

1つ目は、求職者が自分の会社へ入社を決めてくれた時です。やはり、採用の仕事をしているからには、求職者へ選考の合格を伝え、喜んでもらい、入社を決めてくれた時はうれしいものです。

2つ目は、採用した人が、入社後に活躍してくれていることです。採用した後は、皆それぞれの組織へ配属され、接点が少なくなっていきます。そんな中、人づてに活躍の話を聞けるとうれしいですし、自分も後輩に負けていられないと、意欲がわいてきます。

採用活動の目的は、「企業の発展に貢献してくれる人材の獲得」ですが、仕事のやりがいや楽しさは、どれも選考を受けてくれた方々からいただいていると感じています。

白杖でオフィス街を歩く村竹さん
やりがいを感じて楽しく働いています。

最後に、入社以来、私が「こんな合理的配慮があればいい」と感じていることを話しましょう。それは「勤務先のビルに勤める人が皆ハイヒールを履いていればいいのに」ということです。

いつも使用するエレベーターホールはどこが開いたのかわからない。そこで、周りの人が皆ハイヒールを履いていれば、足音を追いかければ開いたエレベーターがどこだかわかるという寸法です。

真面目に話を聞こうとした方がいたら、こんな締め方ですみません(笑)。

今後ともよろしくお願いします。

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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