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施設・サービス

地域での高齢視覚リハの在り方を考える ~デイサービス施設管理者とロービジョン当事者のインタビューから~

舟越さんと吉野さん、おふたりの写真を左右に合わせたコラージュ写真。

前回、ご紹介した歩行訓練特化型デイサービス「エバーウォーク」
見えにくさへの配慮を行うことで、他の利用者や職員に対しても良い影響があったそうです。

店舗管理者の舟越智之さんと、利用者でロービジョンの吉野由美子さんにこれまでの経緯や様々な取り組みへの思いを伺いました。

参考:ロービジョンの利用者へ配慮したデイサービス。具体的な工夫と想定外のよい影響とは?(記事リンク)

舟越さんインタビュー

舟越さんがジェスチャーを交えてお話する画像。

ー歩行訓練特化型デイサービスというのは全国的にも珍しいのではないでしょうか?
一般的なデイサービスは、日中に一緒にご飯を食べたり、娯楽を行うような家族の介護を肩代わりをするものが多いと思います。エバーウォークでは、介護だけではなく自立支援をしようというコンセプトで、歩行に特化していることが一般的なデイサービスとは違う大きな特徴になっています。


ー利用者の条件はあるのですか?
デイサービスを利用するためには、介護保険制度の認定を受けている必要があります。歩行の能力に関しての条件はありません。車椅子や、尿バルーンをつけている利用者もいます。それぞれの要介護度に合わせて頻度を変えられるので、多い方は週4回通われています。エバーウォーク両国は、墨田区以外にお住いの方でも利用できます。(※詳細は、エバーウォークにお問い合わせください)


ー歩行の能力に関して、条件はないのですね。
ここに来た時しか歩く機会がないという方もいますので、本人や家族のニーズに合わせて柔軟に対応しています。一方、最近は介護保険の対象となる65歳以上でも元気な方が増えてきています。「民間のスポーツジムについていけなくなった」という理由で通われるケースもあります。「高齢者の歩行」という限られた分野ですが、確実にニーズはあると感じています。

舟越さんが笑顔でお話する画像。

ー施設を運営される中で大切にしていることはありますか?
皆さまの運動の自由を奪わず、やりたいことができるように心がけています。デイサービスでは、「勝手に立たないでください。歩かないでください」など、行動を制限されるイメージがあるかもしれませんが、1人ひとりが持っている能力を奪わないということを常に意識しています。


ー吉野さんの見えにくさへの配慮を本格的に取り組もうと思ったきっかけは何だったのですか?
最初、ホワイトボードの表示を変えた時、吉野さんが小さな変化をとても喜んでくれたことが転機になりました。その姿を見て、「施設を改修するなどの抜本的な改革は難しいけど、目の前のできることから始めたらいいのだ」と思い、様々な工夫を行うようになりました。


ーそうだったのですね。施設内では、舟越さんを含めて職員や利用者がとても明るい印象を受けました。
皆、楽しい場所でなければ行きたいと思わないですよね。介護やリハビリの専門知識も必要ですが、まずは利用者の皆さんにとって楽しい場所にしたいと考えています。その中で、「カメラで写真を撮りたい」「犬の散歩をしたい」など、やりたいことが見つかれば、自然と色んな場所に出ていきたくなると思います。まだまだ地域にはサービスが届いていない人がたくさんいるので、多くの人に知っていただきたいです。


ー地域の皆さんに知っていただくために、何か工夫をされていることはありますか?
高齢者に限らず幼児なども同じですが、本人以外が生活の決定権を持っていることがあります。そのため、どの方に向けて情報を届ければいいかを考えています。本人の周りの人間関係を含めて把握することで、本質的な対応ができるのです。近年、高齢者のご家族でもスマホを持っている人が増えてきたため、SNSで積極的に情報を発信しています。


ー最後に、高齢者や家族、専門家の方にメッセージがあればお願いします。
介護に関わる立場としては、利用者の要望を把握することが大切だと思います。すぐには対応できないかもしれませんが、全て受け入れます。そうすると、ふとしたことがきっかけで、具体的な改善につながるかもしれません。
デイサービスは、ディズニーランドと一緒で永遠に完成しないものだと思っています。「諦めたらそこで試合終了」という名言もある通り、日々最適解を探す中で、今の一瞬を楽しく過ごせる場所にしていきたいです。

吉野さんインタビュー

吉野さんがジェスチャーを交えてお話する画像。

ーエバーウォークに通おうと思ったきっかけは何でしたか?
3年半前に腰椎を圧迫骨折してから、立ち上がったり歩いたりすると腰のあたりに強い痛みを感じるようになりました。外出せず自宅で過ごす日々が続いていたので、ケアマネージャーさんの紹介でデイサービスに通うことにしました。何か所か見学する中で、リハビリに特化している内容と職員や利用者の皆さんの明るくて前向きな雰囲気が気に入って、エバーウォークに通所を決めました。


ーいつから見えにくさへの配慮をお願いするようになったのですか?

通い始めて1年以上が経ち、プログラムに慣れてきたころから、自分の見え方について少しづつ説明するようになりました。施設管理者の舟越さんが熱心に話を聞いてくれて、職員の皆様も一緒に次々と改善してくださりました。


ー視覚障害支援に特化しているわけではないデイサービスで要望を伝えるために意識されたことはありますか?
これまで私が高齢視覚障害リハビリテーションに携わる中で、一般的な介護施設が全盲の方への対応を適切にするのは難しいと思うこともありました。しかし、まずはロービジョン当事者である私が使いやすくするための方法を考えればよいと気づきました。視覚障害者に限らず、年齢を重ねるごとに、老眼や白内障などで見えにくくなる方は増えてきます。そういう方のためにもなるのではないかと気づくと、要望を伝えやすくなりました。


ー吉野さん自身のことに目を向けたのですね。
「視覚障害者を受け入れるために全盲の方を想定して対応しなければ」といきなり飛躍するのではなく、目の前の課題を解決することからやっていければよいのです。その結果、全盲の方も含めて見え方に関係なく誰もが通いやすい施設になっていくはずです。ロービジョン(見えにくくて)で困っている方達が、日本で200万人に達しようとしている中で大切なのは、こういう小さな変化の積み重ねだと思います。


ー少子高齢化が進む中で、大切な考え方だと思いました。
高齢視覚障害者の支援に対しては、2つの考え方があります。1つは、視覚障害に特化した支援施設を作ることです。全国には、視覚障害者に特化した就労支援施設や老人ホームがあります。確かに、視覚障害者だけのほうが安心して、支援も充実するという意見はあります。
しかし多くの場合、地域の中に視覚障害者が点在しているので、デイサービス施設などは、送迎の関係もありなかなか視覚障害の利用者を集めることができません。そこで、地域にあるデイサービス施設で視覚障害者が適切なケアを受けられるようにして、楽しく過ごせるように改善して行く必要があると考えています。これまでずっと暮らしてきた地域には、たくさん知り合いがいるはずなので、気心の知れた仲間と一緒に過ごせるようにケアを改善して行くのが理想だと思います。

吉野さんが真剣な顔でお話する画像。

ー高齢視覚障害者が地域に混ざるために、課題になっていることはありますか?
視覚障害者本人や家族が、地域の施設に通えるということを知らず、諦めているケースが多いと思います。また、見えにくくなった姿を近所の人に見せたくないと思う気持ちも分かります。
地域の施設で視覚障害者を受け入れてもらうためには、ただ一方的に要求するだけではいけません。「こういう理由でこの動作が困るので、このように変えてください」というように専門的な知識を持って、コミュニケーションをすることが大切です。そのためには歩行訓練士などの専門家と連携も必要になります。


ーエバーウォークの事例は多くの介護施設や病院にとって参考になる点が多いと感じました。
私の要望を丁寧に聞いてくださった職員の皆様には本当に感謝しています。その中で「ロービジョン」のことを知っていただくきっかけにもなりました。エバーウォークでは、栄養など様々なテーマの勉強会を行っているので、いつか視覚障害を取り上げていただくのが次の目標です。
近年、充実したロービジョンケアを行う大きな病院は増えてきましたが、高齢になってロービジョンになった方達が、地域から離れた大規模な病院に行くことは、ご本人の負担や家族の負担も大きく、実現性が低いです。地域で開業している眼科医の方たちにロービジョンケアについて知っていただき、住んでいる地域でロービジョンケアの情報が入るようにすることが大切です。地域に開業しているお医者様と、視覚リハ専門家と、地域のデイサービス施設などの連携が重要です。地域でお互いが支え合うために、エバーウォークのような考え方で運営している施設をどれだけ浸透させていけるかが重要になると思います。

インタビューに答える吉野さんの横顔の画像。

最後に

「デイサービスは永遠に完成しないもの」という舟越さんの言葉に、よりよい施設を目指すプロ意識を感じました。

その上に、視覚障害リハビリテーションの第一線で活躍している吉野さんの知識と経験が加わることで、より良い改善につながったのだと思います。

少子高齢化による介護の担い手不足が深刻な今、視覚障害に関わる地域包括ケアの先進的な事例として印象に残る取材になりました。

吉野さん、舟越さんとスポットライトのスタッフ2名がお話している画像。

お問い合わせ

株式会社エバーウォーク(外部リンク)

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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