背景を選択

文字サイズ

施設・サービス

「一緒にヨガができる。社会でも一緒に生活していこう。」佐藤ゆみさん

佐藤ゆみさん

横浜や東京を中心に活動するヨガインストラクターの佐藤ゆみさん。
健常者へのレッスンだけでなく、発達障害や視覚障害のある方へのヨガも行っています。
今年の12月にはマイスタジオ「佐藤笑顔瑜伽道場(さとうえがおよがどうじょう)」もオープンしました。

佐藤さんがヨガインストラクターになった経緯から障害者へのヨガを始めたきっかけ、さらにはヨガを通した参加者の変化や目指す社会像を伺いました。

略歴

神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、OLを経てスポーツジムのインストラクターに転職。現在はフリーのヨガインストラクターとして活動しながら視覚障害者や発達障害者向けのヨガも行う。佐藤笑顔瑜伽道場代表。
健康運動指導士。
一般社団法人チャレンジド・ヨガ理事。全米ヨガアライアンス200時間(RYT200)取得

インタビュー

OLを辞めてヨガインストラクターに

ー現在の仕事や視覚障害者との関わりを教えてください。
フリーのヨガインストラクタ―をしています。障害の有無に関わらず、色々な方が対象です。障害をお持ちの方のクラスでは、視覚障害者向けのチャレンジド・ヨガや、身体に障害をお持ちの方、発達障害のお子様などを担当しています。


ーどうしてヨガのインストラクターになろうと思ったのですか?

大学を卒業したあと、OLになりました。しばらくすると「太ってきたな」と思って、趣味でスポーツクラブに通い始めました。そこの先生にインストラクターの養成講座を紹介されて、参加したのが始まりです。


ー最初からヨガのインストラクターをやられていたのではないのですね。

そうですね。エアロビはハードで、1年経ったころ、腰は痛いし声は出なくなって身体を壊してしまいました。「もうこれはダメだ。続かないな」と思って自分の身体をメンテナンスするためにヨガを始めました。そこでヨガにはまり、自分の次の10年を考えた時、自分はヨガのインストラクターをやりたいと思って資格を取りました。


ーいつから障害をお持ちの方向けのヨガをされているのですか?

約10年前です。スポーツクラブの会員さまの中に、自閉症のお子様を持つ方がいらっしゃったんです。その方から「特別支援学校のPTAのイベントでお母さんと子供が一緒に運動するクラスを引き受けてくれませんか?」という依頼を受けました。もともと障害をお持ちの方との関わりには興味があったので、クラスを担当したのが始まりです。
そこで、参加された皆さんが喜んでくれたことが、私の成功体験にもなりました。

みなとのロービジョンケアで椅子ヨガを行う佐藤ゆみさん
横浜市立みなと赤十字病院で毎月行っている椅子ヨガ。

難しいことはあっても困ったことはない

ー視覚障害者の方向けのチャレンジド・ヨガを始められたきっかけは何だったのですか?
今、私と一緒に横須賀クラスを運営している眼科医の澤崎弘美(さわざきひろみ)先生との出会いですね。もともと私がインストラクターをしていたスポーツクラブに澤崎先生が通っていらっしゃって、澤崎先生がチャレンジド・ヨガ代表の高平千世(たかひらちせ)さんを引き合わせてくれました。3人で会うと意気投合して、さっそく視覚障害者向けのヨガ体験会をやることになりました。
2015年10月に勉強会を行い、点字図書館に登録している方のみのクローズドな体験会を経て、翌年の1月から一般にも募集を広げて定期的に開催しています。今でこそ全国22か所で行っていますが、当時は4か所しかなくて手探りで始めていきました。


ー視覚障害者に行う難しさや困ったことはありましたか?

最初は大変でしたね。「右手を前に〜」と言っても、視覚障害者にとっては、手のひらを正面につきだすのか、地面に寝かせていいのか、などの細かい動きまでは伝わりませんでした。
そこで「前ならえって言ったらどういう動きをしますか?」と、基本的な動きを確認してから少しずつ発展するように工夫しました。そうすることで視覚障害者でも安心してのびのびと体を動かせるようになったと思います。
また、椅子ヨガ(椅子に座ったままできるヨガ)の場合は「背もたれがここ、肘置きはここです」というように、視覚障害者に触ってもらいながら確認します。ヨガレッスンは難しいことはあっても、困ったことはありません。視覚障害者とコミュニケーションを取りながら工夫をすれば、何だってできると思います。


ー他にも視覚障害者と関わる時に工夫にしていることはありますか?

一言で分かる声かけです。例えば、「声のする方向におへそを向けて」「浅い空気椅子に座るように」「右手を天井に向かって真上に伸ばす」というように、なるべく具体的に1つ1つの動作を分けて伝えるようにしています。複雑な動きがどうしても分からないときは私の身体を触って確認してもらいます。見る・聞く・触るの3つの手がかりのうち、『聞く』と『触る』を存分に使えるようにします。
また、視覚障害者は体幹がふらつくことが多いので、サポーターさんにも具体的な指示をお願いをしてサポートしてもらっています。

ヨガクラスで視覚障害者の身体に触れながら動きを伝える佐藤ゆみさん
複雑な動きでは、身体に触れて説明することも。

笑顔の連鎖を増やしたい

ー視覚障害者にとってヨガの有効性とは何でしょうか?
心身の平安だと思います。視覚障害者と接していると、猫背の人が多いように感じます。外を歩くときに、色々と怖いことがあるのかもしれません。でも、姿勢は気持ちや思考にも影響してくると思います。背筋を少し伸ばすだけで、気持ちにも変化が出るがヨガの良いところです。
ヨガの語源はyuj(ユジュ)で、「つながる」という意味です。心と身体はやっぱりつながっています。
ヨガをきっかけに外出が増えるという人もいます。視覚障害があるとどうしても外出の負担が大きく、家に引きこもりがちになりますが、ヨガを理由に外出の機会が増え、健康につながることは大きな意味があります。


ーチャレンジド・ヨガを始めて、視覚障害者の方にはどのような変化がありましたか?

そうですね、印象的な方が2人います。1人目は、中途で失明された男性です。初めて参加されたときは、自信がなくてふさぎ込んでいるように見えました。でも、今は「僕もこういう風に思い切り身体を動かせるところがあって嬉しいな」と言って、毎週来てくれています。
もう1人の方は、ヨガを始めるまでは消極的な考えがあり視覚障害者が利用できる施設でも、「こういうシステムがなっていない。広報が遅い」などとたくさん要望を言われていました。 でも、ヨガを始めてから素直な気持ちで過ごせるようになったようです。 家でも毎日ヨガを練習しているらしく、すごく上達しています。レッスンでは、私の代わりに見本の動きをやってもらったりしています(笑)


ーそういう変化は嬉しいですね。参加者同士のつながりもできるのでしょうか?

はい、レッスンの後、毎回欠かさず参加してくれる方が音頭を取って皆さんでお茶をしています。私もたまに顔を出すのですが、「買い物を行くときにどこに援助を頼んだらいいか」などの意見交換の場になっていています。
ヨガだけでなくこのような活動も含めて、視覚障害者
の笑顔を見た時にやりがいを感じます。これからも笑顔の連鎖を増やしていきたいと思っています。

チャレンジド・ヨガ横須賀クラスの集合写真
チャレンジド・ヨガ横須賀クラス。参加者の笑顔が印象的です。

全国への広がりとその先

ー佐藤さんは、視覚障害者のヨガに限らず、色々な障害の方を対象に全国で活動されていますよね。どのような思いがあるのでしょう?
要望があるところには伺いたいですね。現地の方の声を聞いて、どういう風に進めていきたいかを一緒に考えます。
例えば昨年、香川県高松市でチャレンジド・ヨガのクラスを立ち上げた時、最初の体験会ではメインインストラクターとして伺いました。やりたいという人がいて、現地にインストラクターがいれば、定期クラスは運営できます。高松は独立したクラスではなくて、香川県網膜色素変性症協会(JRPS香川)が主催している新しい形です。そのため、先方のやり方も取り入れて柔軟に対応しています。例えば、会場の予約や集客はJRPS香川にお願いして、活動報告はインストラクターから原稿をもらって私が投稿するなどの役割分担をしています。


ー全国へはどのような形で拡がるのですか?

それが不思議なのですが、各地から「やりたい」という声が自然発生的に起こってくるんですよね。代表の高平さんの人徳だと思います。
2019年9月には高知県で初めてチャレンジド・ヨガをさせていただきました。地域のヨガインストラクター、歩行訓練士、盲学校の先生などの協力のおかげなんです。今後、地域でどのように拡がっていくか、楽しみでたまりません。
全国にチャレンジド・ヨガが拡がり、笑顔の連鎖が広がる活動を一緒にさせていただいております。今後も色々な方と手を取り、一緒に進んでいきます。


ー佐藤さんとしてこれからの目標や挑戦したいことはありますか?

障害に関係なく楽しめるヨガを全国に普及させることと、それらのヨガを指導できるインストラクターの育成をやりたいと思っています。


ーそれらの活動を今年の12月にオープンした佐藤笑顔瑜伽道場でも行っていかれるのでしょうか?

そうですね。佐藤笑顔瑜伽道場では、障害をお持ちの方でも楽しめるプログラムや個人レッスンも予定しています。
また、講師を養成するプログラムもパッケージ化したいですね。今はまだ障害をお持ちの方にヨガを教えられるプロフェッショナルが少ないですから。障害者向けのヨガと言っても難しいことはなくて、私の土台になっているのは相手の立場になって考えるということです。そうすれば障害者も健常者も同じことができるようになると思っています。

ヨガスタジオで座ってヨガをする佐藤ゆみさんの画像。
マイスタジオではイベントや研修会も企画している。

いつでもいらっしゃい

ー佐藤さんが目指す理想の社会とはどのようなものでしょう?
チャレンジドヨガの理念にも含まれていますが、障害者も健常者もみんなで一緒にいられる共生社会を目指しています。でも、今はまだ障害に対する目に見えない差別があると思います。
例えば発達障害児の場合、医師から診断を受けたり、療育手帳を取得したりすると色々な面で有益だとわかっていても親が認めない。それは障害に対するネガティブなイメージがあるからこそだと感じます。
また、首都圏にいると、街中や駅などで障害者を見かけますが、地方ではほとんど見かけないんですよね。人口が少なかったり、車社会というのも原因かと思いますが、障害者が一人もいないはずはありません。障害の有無に関わらず、自由に外出できるような社会にしていきたいです。


ーそのような共生社会を実現する上で大切なことはなんでしょうか?

お互いを正しく知るために、コミュニケーションを取ることだと思います。健常者のクラスを担当していると「実は子どもが発達障害なんですよね」とか、「先日、主人が脳梗塞で倒れてしまって」という相談を受けることがあります。
そういう話はなかなか初対面の人にはできないですよね。私が伝えたいのは、「みんな一緒だよ。一緒にヨガができる。社会でも一緒に生活していこう。」ということです。垣根を作っているのは自分自身だと思うので、身近な人とコミュケーションしながら障害者と自然に関わるきっかけを作ることが大切だと思います。
人と人とのつながりの中で、必要なことを相談し合える関係性ができればいいですよね。


ー最後に、視覚障害者との関わりに興味を持っている方へ伝えたいことはありますか?

「みんな来て!」と思っています。少しでも興味持ったら、ぜひお問い合わせください。見学に来られるだけでも構いません。
何がきっかけになるかわかりませんが、一人でも多くの人がヨガに興味を持ってくれれば嬉しいなと思います。

ヨガのボックスを使って腕立て伏せをする佐藤ゆみさん
クラスの合間にはこんなパフォーマンスも。

お問い合わせ

佐藤ゆみ先生

佐藤笑顔瑜伽道場 Webサイト

佐藤ゆみ先生の個別クラスなどに関するお問い合わせはこちらから。

メール:egao.yoga.dojyou@gmail.com

チャレンジド・ヨガ

チャレンジド・ヨガ Webサイト

全国各地で定期的に開催されている視覚障害者の方でも楽しめる「チャレンジド・ヨガ」に関するご相談・お問い合わせはこちらから。

メール:challengedyoga@gmail.com (本部・関東)

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

他のおすすめ記事