全盲の捜査官を描いたドラマ『ラストマン-全盲の捜査官-』や都知事選当選を目指すドラマ『銀河の一票』など、視覚障害者が物語の大きな鍵を握るフィクションは少しずつ増えてきています。ドラマ化もした漫画『ヤンキー君と白杖ガール』のような恋愛ものもあり、視覚障害者が描かれる作品のジャンルは多彩です。フィクションをきっかけに自分の見え方や生活を誰かに話せる効果もあります。今回はオタクでもある私、雁屋のおすすめ5作品を紹介します。
夜道でも全盲には関係ない? 漫画『ゴールデンカムイ』
少しでも見えている人が忘れそうになることのひとつに、全盲の人は視覚で判断していないため照明の有無を気にしないというものがあります。北海道を舞台にした漫画『ゴールデンカムイ』に登場する中途失明者にして盲目の強盗団を率いる都丹庵士(とに あんじ)もそうしたキャラクターです。都丹庵士は発達した聴覚を持ち、舌を鳴らし反響した音から周囲の位置関係を把握することができます。まるで見えているかのように行動し、晴眼者達が照明を必要とする夜に村や旅人を標的に強盗をしていました。
『ゴールデンカムイ』は北海道で囚人、帝国陸軍、アイヌはじめ少数民族の人々など多くの人物が金塊を巡って争奪戦を繰り広げる物語です。おいしそうなアイヌ料理がたくさん登場する一方、クマや人との容赦ない戦闘も頻繁に発生します。そんな危険度の高い作品のなかで、都丹庵士や彼の率いる強盗団は主人公の杉元らに立ちはだかる脅威の一つとなるのです。
現実の視覚障害者が皆、都丹庵士らのような聴覚や音で周囲の位置関係を把握する技能を持っているわけではありません。都丹庵士らは視覚障害者のなかでも特殊な存在です。しかし、失明した都丹庵士らが生きていくためにアグレッシブに行動する姿は、視覚障害者に対する保護される側、無力な存在というイメージを一度壊してくれます。本筋となる金塊争奪戦の行方もおもしろいので、ぜひ最後まで見届けてみてください。
作品詳細
- 漫画『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)
- メディアミックス:アニメ、実写映画
- 状態:全31巻 完結
- あらすじ:
莫大な埋蔵金を巡る生存競争サバイバル!!
舞台は気高き北の大地・北海道。時代は、激動の明治後期。
日露戦争という死線を潜り抜け『不死身の杉元』という異名を持った元兵士・杉元は、ある目的の為に大金を欲していた……。
一攫千金を目指しゴールドラッシュに湧いた北海道へ足を踏み入れた杉元を待っていたのは、網走監獄の死刑囚達が隠した莫大な埋蔵金への手掛かりだった!!?
雄大で圧倒的な大自然!VS 凶悪な死刑囚!!そして、純真無垢なアイヌの少女・アシリパとの出逢い!!!莫大な黄金を巡る生存競争サバイバルが幕を開けるッ!!!!
(公式サイトより引用) - 公式サイト:ゴールデンカムイ公式サイト(外部リンク)
- 実写版劇場映画公開時、バリアフリー上映、副音声上映あり。
- 実写映画版、NETFLIX音声ガイドあり
実写版『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』予告・公式動画(画像をクリックすると動画が再生されます)
視覚障害者が映画を見る方法や音声ガイドについては、以下の記事で解説しています。
中途失明のおじいさんが探偵役 小説『闇に香る嘘』
次に紹介するのは、下村敦史さんによるミステリ小説で、江戸川乱歩賞の受賞作『闇に香る嘘』です。中途失明の高齢男性、村上和久が兄の正体を探るのですが、顔を見て同一人物か確認する手段は取れません。様々な証拠を集め、人に話を聞き、手がかりを集めていきます。作中では村上和久の生活も詳細に描かれているため、クロックポジションや生活訓練のこと、それをどのように使っているか、想像が広がります。
ミステリの探偵役といえば鋭い洞察力、そしてそれを支えるのは多くの場合視覚情報です。村上和久は先ほど紹介した『ゴールデンカムイ』の都丹庵士のような優れた聴覚の持ち主でもありません。視覚情報を手がかりにできない村上和久の謎解きはどう展開するのか、そしてその謎解きの先に何が待ち受けているのか。読み進めていくうちにひきこまれる物語でした。
作品詳細
- 小説『闇に香る嘘』(下村敦史、講談社)
- 状態:文庫本(電子書籍版あり)
- あらすじ:
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか……。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。(公式サイトより引用) - 公式サイト:『闇に香る嘘』(下村 敦史)|講談社(外部リンク)
- 2026年9月現在、電子書籍版の販売あり。公式オーディオブックは確認できませんでした。

美容学生と全盲の調香師の恋を描く 漫画『恋と薄情』
スマホで読める縦スクロールの漫画『恋と薄情』では、全盲の視覚障害者の青年、一色秋と主人公の美容学生との恋愛が展開されます。制作にあたっては、視覚障害者への取材や社会福祉法人 日本盲人福祉委員会の協力を得ています。また、作者の真昼てくさん自身も同行援護従業者の資格を取得しています。
こんなイケメンの視覚障害青年、現実にはいないのではと読みながら思わずつっこんでしまうほどの美青年、秋ですが、自分では見えない外見を整える苦労も作中で描かれます。秋は香水などを調合する調香師をして生活を営んでいます。視覚障害があるからこそ意外なところにそれぞれの「きゅん」とするポイントがあります。
恋愛は医療や福祉の文脈では余暇とともに後回しになりやすいですが、人によっては人生を左右することもある大きなトピックです。そしてそこにも障害は無関係ではありません。恋愛に「きゅん」としつつも視覚障害者の生活や意外な注意点も知れる作品です。
参考:全盲青年と少女の恋は「愛情? 同情?」、描かれた視覚障害者の実情“無自覚な差別”が命取りになる|オリコンニュース(外部リンク)
作品詳細
- 漫画『恋と薄情』(真昼てく、LINEマンガ)
- 状態:完結
- あらすじ:
美容系の専門学校に通う春日ちまは、ある時道端で視覚障害者の青年、一色秋を助ける。純粋に人助けのつもりで秋に接するちまだったが、思いがけない秋の態度に、自分の中にある障害者への無自覚な差別を自覚するのだった。 その後、不可抗力とはいえ秋に怪我をさせてしまったちまは、秋の生活のサポートを申し出る。 社会にも出ていない半人前の少女と障害を持つ青年、二人のいびつで不器用な生活が始まる。(公式サイトより引用) - 公式サイト:恋と薄情|3話無料|LINE マンガ(外部リンク)
- LINEマンガの音声読み上げ対応は、2026年9月現在確認できないため、使用端末の読み上げ機能が対応可能かご確認ください。

異世界で盲目の公爵との恋物語? 漫画『盲目公爵の婚約者になりました』
配信アプリは違いますが、こちらも縦スクロールの漫画です。戦争で視力を失った公爵の元で働く転生者の主人公のお話です。視力を失う前から感覚が鋭いため、歩くのにも執務にも問題ない公爵ですが、書類の文字は読めないため、主人公マリンに読み上げてもらうようになります。主人公の声が物語の鍵を握るひとつの要素です。視力を失っても強さに陰りが見えない公爵ですが、マリンと関わっていくなかで本音も見せてくれます。
戦争で視力を失っても影響力が健在な公爵というのは少々ファンタジーを感じますが、世界観を考えればありえる設定です。お仕事から始まって恋愛も生じる物語展開で、綺麗な絵や素敵な世界も魅力的です。
作品詳細
- 漫画『盲目公爵の婚約者になりました』(KONGJAK、Ire、Keran、D&C MEDIA)
- 状態:ピッコマで独占連載中
- あらすじ:
とある小説の中の脇役に転生したマリンは、他の登場人物たちとは関わらず、静かに生きていくことを心に決めていた。 しかし、没落してしまった家門のせいで生活は破綻し、ついには路頭に迷ってしまう。 「お金が必要だわ」 やむを得ず、小説の男主人公であり盲目の公爵ジェラルドの公爵城で、6カ月の臨時職として働くことを決心する。 「公爵城での生活はどうだ?」 「公爵閣下のご配慮のおかげで快適に過ごせています。」 「そんなに気に入ったのなら、私と婚約しよう。」 城での暮らしが気に入っただけなのに、どうしていきなり婚約の話に……!?(公式サイトより引用) - 公式サイト:盲目公爵の婚約者になりました|無料漫画(まんが)ならピッコマ|KONGJAK Ire Keran(外部リンク)
- ピッコマの音声読み上げ対応は、2026年9月現在確認できないため、使用端末の読み上げ機能が対応可能かご確認ください。
視覚障害者のアニメや漫画の楽しみ方について、座談会を実施したときの様子が以下の記事でお読みいただけます。
全盲の機織り宮女の謎解き&恋の行方やいかに 小説『盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ』
最後は、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿された小説が書籍化、コミカライズもされた『盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ』です。『薬屋のひとりごと』でもちらりと色覚異常が扱われていますが、こちらは盲目の主人公氾蓮香(ハンレンカ)が謎解きをします。特殊な機織りの技術を持ち、目では見えない情報を頼りに機織り宮女として生活する蓮香が後宮で起こる数々の事件の謎を解いていく様子にドキドキしてつい先を読んでしまいます。
後宮の特殊性や政治も絡み一筋縄ではいかない恋ですが、謎解き、恋、後宮などさまざまな角度から楽しめる作品です。
作品詳細
- 小説『盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ』(小早川真寛、双葉文庫)
- メディアミックス:コミカライズ
- 状態:全5巻完結(電子書籍版あり)
- あらすじ:機織り宮女として後宮にやってきた氾蓮香(ハンレンカ)。盲目である彼女は、目では見えない些細な情報を感じ取りながら生活をしている。後宮で問題となっていた幽霊騒動も、盲目であるがゆえに解決できた……のだが、褒美として蓮香のもとに渡ってきた皇帝の「ある秘密」にも気づいてしまい!?穏やかに暮らしたいけど、暮らせない機織り宮女の中華後宮ラブ&ミステリー!(公式サイトより引用)
- 公式サイト:盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ 1|双葉社(外部リンク)
- 2026年9月現在、電子書籍版の販売あり。公式オーディオブックは確認できませんでした。

フィクションを「知るきっかけ」に
視覚障害者本人が視覚障害者を描くフィクションを読んでいると、現実との違いに興がさめる経験もあるでしょう。しかし、フィクションで視覚障害のあるキャラクターが描かれることには大きな効果があると私は考えています。作品の話をする流れで、「実際には白杖の使い方は種類があるんだよ」「感覚の鋭い視覚障害者は実在するけど稀」など、自分の障害や現実を構えずに話題にしやすくなります。
また、視覚障害者自身にも、視覚障害者とひとくちにいっても多様な生き方があると知るきっかけも提供してくれます。そして、フィクションの形であれば、医療や障害に興味のない人にも視覚障害がどういうものかを知る機会を作れます。
フィクションには視覚障害者の状況を突然大きく変える効果はありません。しかし、『恋と薄情』の作者、真昼てくさんが取材や同行援護従業者の資格取得などを通して学んだように、制作者は作品のために学ぶ必要が生じます。作品を世に送り出すのに関わっている人々も当然内容をチェックするので相応の知識を身につけなければなりません。そして読者も作品から視覚障害者のイメージや実態を読み取ります。今すぐに何かするほどではなくても、作品を読むことで、視覚障害やその現状と出会えるのです。
読者のなかには、実際に点字や同行援護従業者の資格取得、Webアクセシビリティを学ぶ人も出てくるかもしれません。そうした動きが現実を生きる視覚障害者によい効果をもたらすのは数年以上先ですが、作品を通じて楽しみながら種まきしていければいいですね。
編集協力:株式会社ペリュトン
アイキャッチ写真撮影:Spolite