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聞いてみた・やってみた

視覚に障害があっても、みんなでYouTubeのアイコンを作れる。できることを持ち寄った制作リポート

ぐっちさんのYouTubeチャンネルアイコンのデザイン画。青空と山々を背景に、オレンジ色の服を着て白杖を持ったぐっちんさんが笑顔で元気に歩いている様子のイラスト。

みなさんは、「Blind Style / 旅と視覚障害」というYouTubeチャンネルをご存知ですか?

全盲のぐっちさんが、視覚障害者のリアルな日常を配信しているチャンネルなのですが、このたびパワーアップのため、アイコンやチャンネル名が新しくなりました!

ぐっちさんのチャンネル「Blind Style / 旅と視覚障害」は以下のリンクから。
Blind Style / 旅と視覚障害(外部リンク)

この記事では、生まれてからこれまで「アイコン」を見たことのないぐっちさんと、晴眼者でデザイナーの私、そして心強いみなさんと力を合わせておこなったアイコン制作についてリポートします!

YouTubeチャンネルのアイコンの役割って?

さて、今回制作するYouTubeチャンネルのアイコンとは、どんなものなのでしょうか。

それは、YouTube上で動画と一緒に配置される、小さな円形の画像のこと。配信内容や配信者について一目で伝えることができる、とても重要なパーツです。

多くのチャンネルが、独自性を出せるように、この小さな画像に工夫を凝らしています。

たとえばHIKAKINさんのチャンネルのアイコンは、HIKAKINさんの顔が大きくアイコンに使用されていて、ぱっと見るだけで「HIKAKINさんのチャンネルだな」とわかるようになっています。

視覚障害者も、お出かけを楽しもう

ぐっちさんのチャンネル「Blind Style / 旅と視覚障害」では、開設した2021年から、視覚障害者のリアルな日常動画を配信しています。

動画の内容はさまざまですが、旅行や出張の様子、グルメ散歩など、アクティブな生活の様子をいきいきと動画で伝えており、コメント欄も活発です。

ぐっちさんは、お出かけがとにかく大好き!公共交通機関を駆使しての移動の中では、持ち前の好奇心を発揮し、どんどん気になるものに飛び込んでいきます。

そんなぐっちさんの様子を見ていると、まるで一緒にお出かけをしているようにワクワクした気持ちになります。

ぐっちさんのYouTubeチャンネル、6コマの動画のサムネイルが並んでいるスクリーンショット。「最後の最後にありえへん」「白杖男子の夏」「鈍行グルメ旅」「全盲の気ままな街歩き」など。
(ぐっちさんのチャンネル「Blind Style / 旅と視覚障害」より)ぐっちさんのチャンネルのリンクは記事の最後にあります。

ぐっちさんは、今後、よりアウトドアに焦点を当てていきたいと考えています。目指すのは「視覚障害者ももっとお出かけができる」そんな社会をつくること。

そのためにアウトドアのイメージを強く打ち出すアイコンを制作することになりました。

これまでと同じように、街歩きやアウトドアの動画を多く配信していき、将来的にはYouTubeチャンネルだけでなく、noteなど様々な媒体を使って若い人にもコンテンツを届けたいといいます。

これまで視覚障害者のチャンネルを見たことがなかった私。白杖の人を街で見かけたことはあっても、その人がどんな風に世界を捉えているのかはわかりませんでした。

動画では、白杖で様々な情報を得ながら歩いていく様子を、ぐっちさんの視界で体験することができます。他にも、食事の場面では手で確かめながら食器に触れたり、温かいおそばの香りを楽しむ様子も。

木目調のテーブルに、グラスに入ったアイスカフェラテのようなドリンクと、小さめなマドレーヌのような焼き菓子が乗っている。
(ぐっちさんのYouTube動画のスクリーンショット)ぐっちさんのチャンネル「Blind Style / 旅と視覚障害」のリンクは記事の最後にあります。

YouTubeは目で見ることが前提のプラットフォームです。

そこで視覚障害がある自分が配信することに意味があると思う、とぐっちさんはいいます。

言葉を足がかりに、イメージをふくらませる

アイコンを新しくするということは決まりましたが、ぐっちさんはこれまで一度もアイコンを見たことがありません。アイコンというものがあるらしい、ということは知っていましたが、どんなものなのかイメージするのが難しかったそうです。

そこでぐっちさんは、インターネットで情報を集め、アイコンについて学び始めました。さまざまな情報にふれ、頭の中にアイコンを描いては、身近な晴眼者に質問して深めます。参考にするため、有名な会社のアイコンについて友人にたずね、どんなアイコンにするとよいかイメージをふくらませていったそうです。

一方でデザイナーの私は、これまで経験したたくさんの制作の中で、アイコンを制作することもありました。

お客さまのやりたいことをじっくりとうかがい、プロの立場から提案をします。視覚障害者の方と一緒にものづくりをするのは今回が初めてで、うまくいくかな?と少し不安な気持ちもありました。でも、それよりもどんなアイコンを一緒に作れるかが楽しみで、お話をもらったときからずっとワクワクしていました。

言葉を大切にコミュニケーションを重ねていけば、きっといいアイコンが作れると思っていたからです。

机の上に紙やノートPC が広げられ、それを指で指し示しながら話し合っている三人の人の手元。
(写真素材:ぱくたそ)

見える人たちとのものづくりの中でも、言語化をしながら進めていくことがとても重要で、見た目だけで決めることはほとんどありません。

ただ作るだけではなく、これはどういう意図をもって作ったか、ここから改善するにはどうすればいいかを言葉にし、言葉をもとに考えていくことが大切です。

晴眼者でもデザインの見えかたや感じかたはさまざま。ぐっちさんとの制作が決まったときは、「とにかくたくさんお話しよう!」と思っていました。

一番最初の会議では、どんなアイコンにしたいかを言葉で深めていきます。

「これからどんなことをしていきたいか聞かせてください!」

「どんな印象を持たれるアイコンにしたいですか?」

「そもそも、どうしてアウトドアが好きなんですか?」

質問を重ね、答えてもらいながらアイディアを広げていきます。

手書きメモの画像。チャンネル名が変わること、「外での活動」「点字ブロック」「白杖」などのキーワードや、デザイン案のラフイメージなどが書かれている。
筆者の手書きメモの一部(画像提供:筆者)

「お出かけの好きなところをなんでもいいのでたくさん教えてください!」とお願いしたとき、ぐっちさんはとても楽しそうに答えてくれました。そんなぐっちさんの姿を見て、こちらまで楽しい気持ちになり、いいアイコンをつくろう!と想いを強くしました。

制作にかかわる全員がそれぞれの視点からアイディアを出し、「こんなのもいいかも!」「あれもいいね!」と盛り上がっては、まだ見ぬアイコンにワクワクが高まりました。

徹底的に信頼して、話し合って決めていく

今回、ぐっちさんの元同僚でもある脇本さんもプロジェクトに参加し、視覚的なサポートを担当してくれました。

脇本さんはアイコンのデザイン案についてどんな見た目なのかをぐっちさんに伝えたり、ぐっちさんからの質問に答えたり、制作全体を支えてくれます。

普段から、視覚的な判断をするとき、ぐっちさんは脇本さんにお願いしているそうです。

「人によるんですけど、僕はこの方にお願いしたいと思ったらその人だけに意見をもらうタイプです。視覚障害者もいろいろで、たくさんの人に意見を聞いて決めるタイプの人もいます」

ぐっちさんは、他にも「服を買いに行く時はこの人」といった感じで分野ごとにお願いする友人やヘルパーが決まっているそうです。

この人、と決めたら徹底的に信頼する、とぐっちさんはいいます。教えてもらっているから全て従うわけではなく、たくさん質問をして考えをまとめ、自分で決めていきます。

洋服店のハンガーにたくさんの服がかかっている様子。
(写真素材:Unsplash)

ぐっちさんと脇本さんは、とにかくたくさん話し合います。

デザイン案をお見せすると、脇本さんのほうから「イメージできてる?」と確認することもあれば、ぐっちさんのほうから「どうなっているか教えて欲しいです」と質問することもありました。

特に印象的だったのは、脇本さんは見えるもの全てを伝えているわけではなく、情報を選びながらわかりやすく伝えていることです。「このアイコンを見るとどのような印象を受けるか」といった部分についても二人は話し合い、制作の方針を決めていきました。

ぐっちさんの立場に立って視覚情報を支援する脇本さんの存在は、一緒に制作する私たちにとっても心強い存在でした。

デザイン案について全員で言葉を使って認識を合わせながら、ぐっちさんにもアイコンがイメージできるよう、協力して進めていきました。

誠実に言葉にしていけばきっと伝わる。全く同じものを描けるかどうかはわからないけれど、きっと近いものを描いて進めていける。

お互いを信頼し、思い切って制作を進めていきました。

誰かと力を合わせ、新しい視点をもらう

複数のラフ案から全員でイメージをさぐり、制作は佳境に。

アイコンは、ぐっちさんが屋外で楽しく過ごしている様子を切り取る方向性になります。

ただ、あまりたくさんのものを詰め込もうとすると、何が伝えたいのかがわからなくなってしまうので、整理しながら、見た人もおでかけをしたくなるような完成形を目指します。

そこで特に重要なのが、色です。

印刷会社の色見本をいくつも広げて、指で指し示しながら確認している様子。
(写真素材:Unsplash)

色は、人の目に映ってから素早く意識に届き、さまざまなイメージをもたらします。特にYouTubeのアイコンのように小さい面積では、選んだ色が印象に強くつながります。

また、ぐっちさんは色を見たことがありません。何色であるかを伝えるだけでは不十分だと思いました。

そこで、例えば「オレンジ」と伝えるだけではなく、「元気になるような明るいオレンジ」と印象を添えて伝えたり、他の感覚を使って「夏の日みたいな感覚」のように比喩を交えて伝えてみました。

お互いの頭に描いているアイコンを共有する方法は、言葉だけです。できるだけ近いイメージを持てるよう、やりとりを重ねていきました。

制作を進める中で、今後改善できそうなポイントも見つかりました。

ABCの3案から選んでいき、C案をブラッシュアップする過程がしばらく続く時期がありました。

私は内容が変化していっても「C案」と呼び続けていたのですが、C案はブラッシュアップする過程でたくさんあり、どれを指しているのかが少しわかりにくくなってしまいました。

今後は、確実に全員で同じものを見るために、毎回固有の名前をつけるなどの改善ができそうです。

A、B、C、のラフ案。ぐっちさんの顔にクローズアップしたイラスト、白杖を持って屋外にいる様子のぐっちさんの横顔のイラスト、白杖と足元にクローズアップしたイラストの三案。
制作途中のラフ案(画像提供:筆者)

誰かと一緒にものづくりをするためには、工夫が必要です。でも、人それぞれの見方を持ち寄ることには、大きな意味があるのではないでしょうか。

たとえば、私は服が欲しいと思ったとき、人と一緒に見に行くことが多いです。それは、自分で「いいな」と思っても、誰かから見たらまた違う可能性があるからです。

自分はこの服が好きだけれど、もっと似合うと言ってもらった服があったらそれを試すのもよいかもしれません。人から意見をもらうことで客観的な視点が得られたら、よりよい服選びができると思います。

自分ひとりでは、客観的にものを見ることには限界があります。だからこそ人と協力し、違う視点をもらうことで、伝わるものづくりがきっとできるはずです。

誰かのお出かけを励ます旅を、一歩ずつ

みんなで力を合わせたアイコンは無事に完成し、先日無事に公開!

アイコンでは、さわやかな青空の下、遠くに山々が見えるアウトドアの景色に、白杖を持ったぐっちさんが楽しくてたまらないという表情で大きく踏み出しています。

見た人たちもつられてお出かけをしたくなるような、明るくイキイキとした仕上がりになったと思います。

ぐっちさんのYouTubeチャンネル、ホーム画面のスクリーンショット。アイコンが配置された様子やヘッダーのカヌーの写真が目に飛び込んでくる。
(ぐっちさんのYouTubeチャンネル「Blind Style / 旅と視覚障害」のトップ画面)

私はあまり旅行はしないのですが、歩くのが好きです。ただ足を一歩一歩前に進めていくと、行きたいところに行ける。その実感は、いつも私に自信をくれます。

何かを作ることも、同じように一歩一歩を地道に重ねていくもの。

作っている時に迷うこともありますが、見えにくいところは誰かにたずねれば、教えてもらうことができます。見え方が全員違う私たちも、きっと応えてもらえるとお互いを信頼し、少しずつ進んでいきました。

みんなで協力すれば、きっとできる。

そうして完成したアイコンが、誰かのお出かけやアクティブな生活を応援することにつながったら、これほど嬉しいことはありません。

「Blind Style / 旅と視覚障害」:https://www.youtube.com/@gucci_ism(外部リンク)

執筆:マスブチミナコ
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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