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聞いてみた・やってみた

斜面を滑走する爽快感~視覚障害者スキーの魅力~

筆者ケビンさんが、スキー場のスタート位置に立っている。明るい黄色のウエアで、「BLIND」と書かれた黄緑色のビブスをウエアの上から着用している。

皆さんは視覚に障害があってもスキーができることをご存じでしょうか?

「スピードも速いし滑る方角がわからないから危なそう」

そう思われる方も多いかもしれません。

全盲である私も、よく周囲から「目が見えていないのに怖くないの?」とか、「どうやって滑る方角がわかるの?」と質問されます。スキーは視覚に障害があっても、自分自身のスキルがあり適切なガイドをしてもらえれば、健常者と全く同じコースで同じ道具を使って楽しめるスポーツです。

今回は視覚障害者のスキーについて、その魅力と楽しみ方をご紹介します。

記事の最後には、実際にガイドが声をかけながらスキーを楽しむ様子の動画も掲載しました。

パラリンピック種目にもある、視覚障害者のスキー

そもそも視覚障害者がスキーをしているところを見たことがないという方も多いのではないでしょうか?

日本ではあまりメジャーではないかもしれませんが、視覚障害者スキーはパラリンピック種目にも入っているスポーツです。

参考:カテゴリーとクラス分け / アルペンスキー / 公益財団法人 日本障害者スキー連盟 | JAPAN Para-Ski Federation(外部リンク)

カテゴリーとクラス分け / ノルディックスキー / 公益財団法人 日本障害者スキー連盟 | JAPAN Para-Ski Federation(外部リンク)

視覚障害者の場合、スキー板やストックなどの道具は健常者と全く同じものを使用します。

滑走中、スキーヤーは足の裏から伝わる斜面の傾きや角度、風の向きなどで自分の進んでいる速さや方向を把握します。

それと同時にガイドの発する声や音での指示も非常に重要になります。ガイドの方法はスキーヤーの前後どちらかをガイドスキーヤーが並走しながら声で方角を指示する場合や、電子音が鳴る装置を付けたガイドが前を滑り、後ろから視覚障害者のスキーヤーがその音源を頼りに滑走する方法などがあります。トランシーバーなどを双方が装着し、離れたところからガイドが方角を伝える方法なども時には有効です。同じ視覚障害者スポーツのマラソンや水泳などとは異なり、ガイドと物理的に紐などで繋がっているわけではないので、ガイドとスキーヤーの信頼関係が非常に重要なスポーツと言えます。

ケビンさんとインストラクターが、斜面に止まって会話をしているところ。かなり急な斜度のコースで、下の方にリフト乗り場が見える。

視覚障害者スキーのふたつの魅力

視覚障害者にとってのスキーの魅力は、主にふたつあると私は感じます。

まずひとつ目は、自分自身の意思で進む方角やスピードを自由自在にコントロールできるという点です。

これは健常者の方には少しイメージしにくい感覚かもしれません。健常者の場合、たとえば日常でのランニングや車の運転など自由に動き回れることが当たり前ですが、視覚障害者の場合は自分自身の意思のままに移動できる機会というのは実は非常に限られます。

視覚障害があっても、ガイドがいればランニングやタンデム自転車の運転などは健常者と同じように楽しむことができます。ただ、それはあくまでガイドと物理的に繋がった状態で方向や速度をコントロールしているので、本当に自分自身だけですべてをコントロールしているわけではありません。また1人で白杖を使って歩いている時でさえ、急に走ったり方角を自由に変えることは難しいのです。

一方、スキーでは全てを自分自身の意のままに操作することが可能です。ガイドは方角を音や声で指示しますが、スキー場の斜面はかなり幅が広い場所もあるので曲がるタイミングや加速や減速のタイミングも自分自身で判断してコントロールできます。何よりガイドと物理的に繋がっていないことで、日常生活では味わえない解放感を感じられます。

ガイドさんと筆者ケビンさんが、コース斜面の上の方から、これから滑る斜面を確認している。コースの奥には、雪の山々が見える。

ふたつ目は、圧倒的な爽快感とスリルです。スキー場には初心者コースから上級者コースまでいろいろな傾斜角度の斜面があります。ある程度のスキー技術があれば、視覚障害があっても上級者コースの斜面に挑戦して、時速30km以上のスピードで滑走することも可能です。

またひとくちに初心者コースや上級者コースと言っても、斜面にもそれぞれに特徴があります。凸凹が多い斜面、右や左に傾いた斜面、急に斜度が変わる斜面など、実にさまざまです。ひとつずつ異なる斜面をガイドの指示と自分自身の感覚を頼りにスキーを操って滑り降りる爽快感と、次の瞬間に転んでしまうかもしれないという緊張の中にあるスリルは格別です。

私は全盲ですが、あるスキー場のワールドカップにも使用された最大斜度30度以上の斜面を滑り降りるのにハマったことがあります。少し右側に傾いている斜面で途中から斜度が急になる難しいコースなのですが、何度も転びまくって、それでもその爽快感とスリルが忘れられず、ずっと滑り続けていたことを覚えています。

筆者ケビンさんが雪の斜面を滑っている。ケビンさんの後ろからガイドが声をかけている。
ガイドが後ろから声をかけ、斜面を滑るケビンさん

視覚障害者はスノーボードは可能か

ここまではスキーの魅力について書いてきましたが、知人からよく聞かれる質問として「スノーボードはできるの?」というものがあります。

スキー場でもスキーヤーよりもスノーボーダーの方が多いように感じるほど、スノーボードを楽しむ人が増えてきました。私は両方挑戦したことがありますので、これからウィンタースポーツを始めたいという方のために、私なりに回答します。

率直に言って、視覚障害者、特に全盲の場合はスキーの方が圧倒的に親しみやすいと思います。

それは、スキーとスノーボードの特徴が大きく違うからです。

まず、滑り出しの姿勢です。スキーは基本的に体の正面が斜面を下りる方向と同じになります。しかしスノーボードの場合は板の形状上90度横向きのスタートになるため、斜面が見えていない視覚障害の場合、滑り降りる方向をイメージするのに苦労します。

滑走中にターンして方向を変える時も同様です。スキーの場合は斜面の下側に常に顔を向けた状態で曲がりたい方向に板を向ければ曲がることができます。一方、スノーボードは進む方向と板の向きが逆なので、イメージを掴むまでが大変です。

斜面の微細な形状を把握するのもスノーボードの場合は困難です。スキーの場合はスノーボードに比べて板が薄いので、斜面表面の感覚もより掴みやすいです。

そして、スキーは左右の足を独立して別々に動かすことができますが、スノーボードは1枚の板に両足が固定されます。そのため、ターンの際や転びそうになった際に、スノーボードはより恐怖を感じます。実際に転んだときも、スノーボードではお尻から勢いよく斜面にたたきつけられることが多く、私は結構痛いと感じました。もし初心者から始めたいのであれば、スキーから挑戦されることをおすすめします。

視覚障害者スキーの始め方

いかがだったでしょうか?この記事を読んで少しでも視覚障害者スキーに興味を持ってくださったら幸いです。

これからスキーを始めたいという方のために、最後に初心者からのスキーの始め方についてご紹介します。正直なところ、視覚障害者スキーはまだ日本ではマイナーなので、自分に合った指導者にめぐり合うことは困難というのが実情です。

もし知り合いにスキーのインストラクターや経験者がいれば、一度お願いしてスキー場に連れて行ってもらい指導を受けるのも良い方法です。また関東や北陸の一部のスキー場のプライベートレッスンでは視覚障害者でも受け入れてもらえるところがあります。インターネットで検索してみるのも良いと思います。

今年もウィンタースポーツの季節がやってきました。2026年3月には、ミラノ・コルティナパラリンピックも開催されます。この記事を読んだ皆さんが、視覚障害者のスキーに関心を持ったり楽しんだりしていただけるよう願っています。

Spotliteが運営している「同行援護事業所みつき」では、スキーの同行援護が可能なガイドも在籍しています。詳細は事業所へお問い合わせください。

ガイドが声をかけながら滑走するケビンさんの動画です

執筆:ケビン
写真・動画提供:ケビン

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編集協力:株式会社ぺリュトン