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ストーリー

静寂の中、観客と選手が一体に。2025日本ゴールボール選手権大会決勝レポート

選手がゴールボールプレイ中の様子。右手を振り切ってボールを投げたところ。水色のユニフォーム姿で右足を大きく前に踏み込んでいる。背景には観客やサポートスタッフの姿もある。

2025年11月22日と23日の2日間、ゴールボールのクラブ日本一を決める「MONEY DOCTOR 2025 日本ゴールボール選手権大会」が開催されました。

ゴールボールは、「静寂の中の格闘技」とも呼ばれています。今大会には、2024年パリパラリンピックで初の金メダルを獲得した男子日本代表、そして2020年東京パラリンピックで銅メダルを獲得するなどの成績を残す女子日本代表の選手も参加し、“世界最高峰”の試合が展開されました。

23日に行われた決勝戦を中心に、ゴールボールの魅力と大会の様子をお伝えしていきます。

※Spotliteを運営する株式会社mitsukiは、日本ゴールボール協会のオフィシャルサプライヤーです。

投球からゴールまでのわずか2秒、視覚を使わない激しい攻防

選手が、ボールを持った左手全体を大きく後ろに引いて、投球の動きに入るところ。右ひざを90度まげて空中に蹴りだしており、全身で投げようとしている。
選手が、ボールを投げた瞬間の様子。投げ終わった左腕は体の前でクロスして右肩あたりまで振り切っている。右足を踏み出し、左足は地面を蹴った直後。

ドン、ドン、ドン!

コート上をバウンドしながら勢いよく転がるのは、重さ1.25キログラムのボール。ときには時速70キロメートル近い速度で転がるといいます。

選手たちは全員がアイシェード(目隠し)で視界を完全に覆っています。触覚や聴覚を頼りにしてボールを投げ、相手のゴールに多くゴールを入れたチームが勝ちます。

「3かな。いや、4か」
「オッケー」

守備側は、ボール内の鈴の音を頼りにして飛んでくる位置を数字で共有し合い、全身で受け止めます。

筆者は、ゴールボールをはじめて現地観戦し、その迫力に圧倒されました。

3人の選手がゴール前でディフェンスをしているところ。全員が右向きに低く飛び、寝そべるような姿勢で並んで、ゴール全体をガードしている。
素早い動きでチームで連携してゴールを守ります。

「静寂の中の格闘技」ゴールボールとは

ゴールボールの基本を図解した画像。クレイ人形を使ってコートの中でプレイしている様子を再現。コートのサイズは縦9メートル、横18メートル。短い辺の距離いっぱいにネットの張られた高さ1.3メートル幅9メートルのゴールがある。コートは3メートルずつ6つのエリアに区切られており、自ゴールの前6メートルまでが「チームエリア」。中心のセンターラインを挟んだ6メートルが「ニュートラルエリア」。選手は各チーム3人ずつで、センター、レフトウイング、ライトウイング。試合時間はハーフタイム5分を挟んで前半後半各12分。同点の場合は6分の延長戦が実施される。
(画像提供:日本ゴールボール協会)

ゴールボールとは、1チーム3人の選手が、鈴の入ったボールを転がすように投げ合い、得点を競う対戦型の球技です。コート内の全選手がアイシェード(目隠し)をつけ、ボールに入った鈴の音とレフェリーのコール、笛、相手選手の足音などを頼りにプレーします。

選手は音を頼りにプレーするため、試合は静寂の中で行われます。レフェリーの「クワイエット プリーズ!」というコールは、「静かにしてください」の合図。選手と観客が一体となって、ボールの動きを静かに待ちます。

転がってくる重さ1.25キログラムのボールを全身で守備し、すぐに起き上がって投球する動作を繰り返します。この様子が、休みなく全身にボクシングのパンチを受けるさまに似ていることから、「静寂の中の格闘技」とも呼ばれているのです。

アイシェードを装着し、上を向いている選手と、その前で装着状況を確認するレフェリー。
試合前、レフェリーが選手と向かい合い、アイシェードをしっかりと確認している。

ゴールボールはパラリンピック競技のため、「障害者のスポーツ」というイメージが強い人もいるかもしれません。しかし、ゴールボールには晴眼者だけのチームもあり、過去の日本選手権で優勝したこともあります。ゴールボールは、視覚に障害のある人を対象に考えられた球技ですが、選手全員がアイシェードを装着することで、見え方にかかわらず公平に競えるスポーツなのです。

コートのラインをクローズアップした写真。テープの下に突起が仕込まれている。
紐でラインを作った上からテープでしっかりと止め、選手は足の裏や手の感覚でラインがわかるようになっている。

「静」と「動」を楽しむ鑑賞体験

各試合、開始15分前に選手が入場し、練習が始まります。バウンドするたびに、観客席までドスン、とボールの重量が伝わります。

縦9メートル横18メートルのコートは、絶妙なサイズです。攻撃では正しくゴールを狙うために技術を要する一方、守備でも一筋縄ではいかない様子が選手の動きから感じられました。

また、本大会では、公式サイト上で実況中継をライブ配信していました。

「○○選手が膝で受け止めました」
「レフトとセンターの間を抜けてゴールへ」

といった具体的な解説があり、試合を目で見ていなくても音声で伝わるようにアクセシビリティの工夫がされていました。

ゴール直後、ディフェンスからオフェンスに移った瞬間のスローイングの様子。右手を振り切り左足を大きく踏み出してボールを投げたところ。

さらに、実況はゴールボールの初心者にもわかりやすいのも特徴です。

「ロングボールというルールがあって、2バウンドできなかったので得点になりませんでした」

「今のはわざとほかの2選手が音を鳴らすトリプルフェイクです」

など、ルールやテクニックの補足があるため、初めての観戦でも試合のポイントを理解しながら楽しめました。

攻守ともに多彩な戦術を展開。頭脳と肉体をフル活用する真剣勝負

大会最終日23日の試合は、10:00の女子準決勝から始まり、2つのアリーナで計10試合が実施されました。

チームは頻繁にタイムアウトをとってコーチと作戦会議を実施します。コート上のどこを狙ってどの選手が投げるのか。一回ずつの投球が、頭脳と肉体をフル活用する真剣勝負であることがわかりました。

基本的な投げ方は、ボウリングのように腕を前後に振って投げる方法。そのほか、ボールを持ったまま一度体を回転させる「回転投げ」や、後ろを向いて脚の間から投げる方法もあります。

ボールを確実にゴールに入れるテクニックも選手によってさまざまです。バウンドを活かして、相手選手の体に当たっても勢いを止めないようにする方法や、速い球で一直線にゴールを狙う方法などが見られました。

そのほか、ボールを投げない選手がわざと足音を立てる戦術「フェイク」や、定位置とは逆サイドからの投球など、相手の聴覚をかく乱するためのテクニックも使われていました。

一方で、ディフェンス側の戦術も見応えがあります。ボールの音に反応して瞬時に脚を伸ばしたり、バウンドボールを防ぐために体を浮かせたりして守備を展開します。

試合後、一列に並んで順番に握手する対戦チームの選手たちとコーチ陣。

手に汗握る決勝戦。男女それぞれ初優勝チームが競技に新たな風を吹かせる

女子決勝戦は、昨年準優勝の「Merveilles」と昨年3位の「なでしこ」の対戦となりました。圧倒的な得点力で予選を勝ち抜いたMerveillesと、手堅いディフェンスを強みとするなでしこ。どちらが自チームの理想の流れに持ち込めるか、注目の対戦カードとなりました。

前半開始から約2分で、東京パラ銅メダルメンバーの一人、なでしこの天摩由貴選手が先制点を奪取。Merveillesも負けじと速攻カウンターを放ちますが、なでしこの3人はボールが届く前に素早く守備位置に戻るため、なかなか得点に結びつきません。

しかし、前半残り5分を切った時点で、Merveilles・新井選手のバウンドボールがゴールネットを揺らし1対1の同点に。その後、両チーム隙を見せず同点のまま前半終了となりました。

後半開始からまもなく、新井選手の力強い回転投げが相手ディフェンスの膝を弾き、Merveillesが2点目を取り逆転。

その後、残り約5分でMerveillesの反則によりペナルティが科されます。しかし、なでしこ天摩選手の投球は惜しくもアウトに。終盤5分、なでしこの猛攻をMerveillesが凌ぎ、初優勝を果たしました。

インタビューに答える新井選手。スカイブルーに白のアクセントが入ったユニフォームを着ている。
Merveilles、新井みなみ選手

試合後、2得点でチームを優勝に導き、大会合計で18得点を決めた、本大会の女子最多得点賞、新井みなみ選手にインタビューしました。

「私の失点から試合が始まりましたが、チームメイトと一緒に気持ちを切り替えたことで取り返し、流れをつかむことができました。失点があっても攻め続ける姿勢が大事だと感じました」

後半、ペナルティースローで相手チームからディフェンスに指名された新井選手(※)。パリパラリンピックで共闘した天摩選手との一騎打ちを振り返ってこう語ります。

「私、ペナルティ止めるのすっごい下手くそで、たぶん相手のチームもそれをわかっていて私を選んだと思うんです(笑)。しかも、私の苦手な右側のコースに投げてきて、かなり計算された攻撃であることが伝わりました。

プレッシャーはありましたが、負けずに自分の過去イチの動きを意識してディフェンスできました。結果はアウトで、今日はすごく運が味方してくれる日だと感じました」

(※チームの反則によるペナルティースローでは、相手チームに指名された選手が1人でゴールを守るルール)

女子決勝戦に続き行われた男子決勝戦も白熱しました。

対戦カードは、3連覇を狙う「ゴールデンスターズ」と「所沢サンダース」です。どちらも攻撃に強みを持つチームだけあって、次々と点が入る目まぐるしい展開となりました。

所沢サンダースの選手の投球の瞬間。ボールを持つ右手を力いっぱい引いて、右足を軸に回転しながら投げようとしている。

激戦の末、6対5で所沢サンダースが初優勝。山口凌河選手は、インタビューを受けて「僕はめちゃめちゃ下手くそです!今日勝てたのはチームのみんなのおかげなので、本当に感謝しています!」「チーム全員の声援の力で勝つことができました!」と、達成感に溢れた表情で語りました。

大会パネルの前で、マイクに向かってインタビューに答えている山口選手。黒地に鮮やかな黄色のアクセントが入ったユニフォーム。
所沢サンダース、山口凌河選手
コート内で満面の笑顔を見せている所沢サンダースの選手3人。

ゴールボールは、観客と選手が一体になれるスポーツ

パリパラリンピックで金メダルを獲った日本代表チームのキャプテンで、本大会の男子最多得点賞(22得点)を獲得した金子和也選手が、大会の合間にインタビューに答えてくださいました。

観客席に座って、笑顔でインタビューに答える金子選手。青地に黄色いアクセントのユニフォームを着ている。
ゴールデンスターズ、金子和也選手

小学生のときから野球をしていた金子選手ですが、小学校4年生でレーベル神経症を発症し、中学3年生のときにゴールボールと出会います。その後、日本パラリンピック委員会主催のイベントをきっかけにゴールボールを始め、高校1年生のときに育成ユース選手になり、高校2年生で代表選手になったといいます。

「ゴールボールでは、ボールが自分の手を離れてからは状況がわからず、審判の合図があるまでは得点を信じて待つことになります。静寂のなか、客席やベンチの皆さんと一体になってゴールを願い、そしてゴールがわかった瞬間に一緒に喜ぶ体験は、ほかのスポーツにはない魅力ですね」

また、攻撃側も守備側も、晴眼者の私にはボールが見えていると感じてしまうほど、選手たちは連携が取れています。これからも、世界最高レベルの大会を日本で観ることができる機会がたくさんあります。読者のみなさんも、ぜひ会場に足を運んでみてください!

簡単に設置できる「誘導マット」の見本と紹介パネル。パネルには「日本ゴールボール選手権大会ではユニバーサルデザインの誘導マットが設置されています」と書かれていて、誘導マットの解説イラストや、誘導マット上で立ち止まったり物を置いたりしないように注意喚起がされている。
会場に設置されていた「誘導マット」の紹介。(写真提供:日本ゴールボール協会)

取材・執筆:渡眞利駿太
写真撮影:遠藤光太(※注釈のあるものを除く)
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

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Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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