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ストーリー

全盲の大学生が起業。オンライン学習塾「vreach」で実体験に裏付けられた学習支援

川本さんが何か手に持って指先で触っている様子を、視覚障害の小学生の男の子とガイドヘルパーが横から覗き込んで笑顔で話している。

国立筑波技術大学在学中の川本一輝さん。幼いころから弱視で、12歳のときに全盲になりました。

川本さんは、2024年11月に合同会社WillShine(ウィルシャイン)を起業し、視覚障害の子どもたちの学習や受験対策をサポートするオンライン学習塾「vreach(ブイリーチ)」をスタート。2025年3月11日に開催された「TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025」で、TOKYO SUTEAM賞を受賞しました。

川本さんに事業に対する思いや視覚障害児の学習についてうかがいました。

川本一輝さんプロフィール

笑顔で話している、青いシャツを着た川本さん
川本一輝さん

徳島県出身。幼少期から弱視で12歳の時に全盲になる。公立小学校の支援学級に通い、中学からは視覚支援学校に。高校は東京の筑波大学附属視覚特別支援学校に進学。現在、国立筑波技術大学の3年生。2024年11月に合同会社WillShineを起業。2025年3月「TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025」で、TOKYO SUTEAM賞を受賞。

川本さんが受賞したTOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025の公式サイトは以下のリンクから。
【イベント開催レポート】 TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025が開催されました!(外部リンク)

受賞者の一覧は以下のリンクから。
受賞者一覧PDF(外部リンク)

当事者から当事者へ。実体験を通した総合的な学習支援

ブイリーチのロゴ画像。白地に青い文字でアルファベットとカタカナでブイリーチと書いてあり、その下に教科書を開いている様なイラストが描かれている。
(画像提供:合同会社WillShine)

「目が見えている私が、目の見えないわが子にどうやって勉強を教えたらいいのか悩んでいた」

川本さんが生徒の保護者と面談した際に言われた言葉です。川本さんの提供しているオンライン学習塾「ブイリーチ」では、現在、講師の全員が視覚障害者です。

川本さん「視覚障害がある中で学習し、大学受験を経験した人たちが講師です。学習でつまずくポイントや対処法も、受験時の交渉も実際に体験してきています」

ブイリーチは、日本全国の「見えない・見えにくい」子どもたちに、オンラインで個別の学習サポートをしています。希望に応じて、パソコンの初期設定やZOOMなどのオンラインツールの使用方法もアドバイスをしています。保護者がパソコンの使い方に自信がなくても安心です。

また、点字教材、拡大文字教材、触覚図形教材の選び方や購入方法なども希望があればアドバイスをしています。

川本さん「たとえば視野狭窄にもいろいろあります。見える範囲や見え方によって、適した教材は違います。視野の欠け方によって縦書きと横書きどちらが読みやすいかも違いますし、視野がすごく狭い場合には拡大するとかえって見えづらいこともあるのです」

また、学習に関する指導だけではなく、保護者や生徒との面談も重視しています。講師自身の学習や生活の経験など、進学した視覚障害者の先輩として伝えられることがあると考えているからです。

川本さん「保護者の方に対しても、当事者の成人との面談は意義があると実感しています」

川本さんの事業、ブイリーチの公式サイトは以下のリンクから。
vreach(外部リンク)

ブイリーチのWEBサイトトップ画像を引用。以下画像内文章を記載。「見えないからできないを乗り越える。日本全国に“完全オンライン”で、子供達の“学びたい”に伴走する“見えない・見えにくい”専門の個別指導塾。vreachとは、ブイリーチは、視覚障害を持つ子供たちの勉強や受験対策をサポートするオンライン塾サービスです。
(画像提供:合同会社WillShine)

地方出身者として体験した、学習環境の地域格差

川本さんは徳島県の出身です。地域には特別支援学級がなく、祖父母の住んでいる別の市の公立小学校で特別支援学級に通いました。小学校5年生までは弱視で、見えにくいながらも、前に出れば板書もできていました。

しかし、通っていた特別支援学級は視覚障害に特化したものではなく、他の障害の子どもも通っている学級でした。そのため支援は十分ではなく、また“訓練”として支援とは程遠い指導をされたこともありました。見えにくいことが原因の失敗で大勢の前で謝罪をさせられたり、いじめにあったりもしたといいます。

川本さん「理不尽なこともたくさんありました。見えない自分は、社会からはじかれて生きていくんだな……と、感じていました。このころに“悩み切った”感じです」

男性らしき2人の人物の足元の写真。一人は白杖を持っている。

しかし、中学で視覚支援学校に進学することで、学習環境が大きく変わります。先生の話をICレコーダーで録音して繰り返し聞き、口頭試問で授業やテストを受ける経験をしました。弱視の先生も多くいました。また、晴眼者の先生も点字を覚えたり触知教材を作成してくれたり、学習のしやすさがまるで異なっていたのです。中学を卒業するころには、数学は高校1年生の段階まで進みました。

川本さん「わからないことを聞けば先生がなんでも答えてくれて、楽しいと思いながら学習をしていました」

もっと勉強したいと感じた川本さんは、高校進学で東京にある「筑波大学附属視覚特別支援学校」に進学しました。そこで、都会の情報量や進路の事例の豊富さなど、地域と環境による「教育格差」を肌で感じました。高校2年生のころには今の事業のアイデアのベースが川本さんの中に生まれていました。

「進学」を想定していない特別支援教育

川本さんが起業して、子どもたちに勉強を教えているなかで、改めて気づいたことがありました。

川本さん「特別支援学校では、そもそもカリキュラムで“進学”を想定されていない場合もあります。どちらかというと、自立のために“手に職を付ける”ことが重視されているカリキュラムもあり、そのようなカリキュラムで授業を受けていると進学は難しくなってしまいます。

“大学を目指したい”と思える学力がそもそも身につきづらいし、進学を希望したとしても地方では情報も事例も少ないのが実情です。また、“視覚に頼らない勉強の仕方”を教えてもらえないまま、つまづいた学習を取り戻す機会がない子もいます」

川本さん自身も、徳島にいたころは周囲から善意で鍼灸の道を勧められていましたが、「自分には鍼灸の適性がない」と感じていたといいます。

川本さん「鍼灸ができる方は、本当にすごいと思います。でも、特に地方では、ほかにやりたいことがあったり、適性がないと感じていたりするときの選択肢や情報がそもそも圧倒的に少ないのです」

点字ブロックのある都会の広い歩道と、白杖の人、ガイドヘルパーの足元の写真。

視覚障害の学生のアルバイト先としても

川本さんの事業ブイリーチは、視覚障害者に職業の選択肢を提供しているのも特徴です。

川本さん「就労に関しては、当事者から当事者へのサポートはよくないという論文もあるのですが、僕は教育には当てはまらないと考えています。当事者同士だから伝えられることがあると思うからです。

うちの生徒さんが、いずれ大学に進学してうちで働いてくれたらいいなとも思っています。生徒と保護者にブイリーチで恩返しできたら理想です」

また、現在SNSやWEBサイトの制作、運用も視覚障害者が担当しています。

川本さん「障害があると、アルバイトの経験をすることが難しいのです。自分のスキルを提供して対価をもらう。そういう経験を積む場所としても機能していきたいです」

ブイリーチの公式X:ブイリーチ🌠見えない・見えにくい方のオンライン個別塾 (@vreach_jp) / X(外部リンク)

視覚障害者がノートパソコンを使用している手元の写真。

デフやディスレクシアへの展開も

現在、子どもたちの学習支援のほかにも、特別カリキュラムとしてカナダ在住の視覚障害者クレメント・チョウさんの英会話や、プログラミング講座なども実施しています。

英会話の講師を担当するクレメントさんの過去の取材記事はこちらから。

川本さん「特別カリキュラムは、いい講師の方と出会えれば視覚障害者でなくてもお願いしています。いずれ生徒の人数が増えたら、合宿を企画して対面のスポーツ講習などもできたらいいなと思っています。僕自身、ブラインドサッカーのチームにも所属していますしね」

また、小学校低学年からの学習の遅れをブイリーチで取り戻している中学生の生徒もいます。視覚障害に限らず色々な展開が期待できそうです。

川本さん「今回TOKYO SUTEAM賞を受賞できたのは、横展開の可能性が評価された面もあります。今は視覚障害と教育という限られた範囲の事業ですが、デフ(聴覚障害)やディスレクシア(読み書きの障害)にも応用ができると考えています。特にディスレクシアは、音声教材など支援ツールが近い場合が多いのです。

視覚以外の困難がある子どもたちへの学習支援を展開するときにも、“当事者から当事者へ”という形は続けたいと思っています」

サービスに関するお問合わせ・進路や教育に関する相談は、LINEでも受け付けているそうです。また、アルバイトや「ブイリーチでこんなことをやってみたい」といったご相談も受け付け中です!

ブイリーチお問い合わせLINEのQRコードは以下のリンクから
https://line.me/ti/p/4sUhgC2XKJ(外部リンク)

白杖を持った小学生と、手をつないでいるガイドヘルパー。胸元から膝のあたりまでが見えている。

川本さんが過去に執筆したSpotliteの記事は以下のリンクから。

記事内写真撮影:Spotlite(※注釈のあるものを除く)
取材・執筆:aki
編集協力:ぺリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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