私がライターとして「Spotlite」にはじめて関わったのは、2年前のことです。その頃は視覚障害に関する知識はほとんどなく、「同行援護」という福祉サービスがあることさえ知りませんでした。
そんな私が2024年10月にガイドヘルパー(同行援護従業者)の資格を取り、ライターの仕事と並行してガイドヘルパーの活動をスタートしました。この記事では、資格を取るまでの経緯や、研修を受けて感じたことをご紹介します。
私が同行援護従業者の資格を取った理由

私が同行援護従業者の資格を取った理由は、ふたつあります。
ひとつは、「Spotlite」がきっかけで出会った方たちの話を聞くのが楽しかったからです。印象に残っているのが、“「見えないからこそ、実際に足を運んで体験したい」 視覚障害者3名が語る「私と旅行」”という記事。旅好きな視覚障害者3名の座談会です。
私は、彼・彼女らが「一人で海外へ旅に行く」「アクティビティによく参加し、川下りが特に好き」などと話すのを聞いて、とても驚いたのです。驚いている自分を発見したとき、私は「視覚障害者には、ひとり旅やアクティビティは難しい」と勝手に決めつけていたのだと気づきました。
座談会で、日向さんは「私たちは得られる情報が少ない分、実際に足を運ぶことに大きな意味がある」と話しました。そしてみなさんそれぞれが、これまでの旅で感じたことを共有してくれたのです。
「オーストラリアのケアンズは、点字ブロックなどはさほど整備されていないが、ユニークな音がする音響信号機があって印象的だった」
「ドイツの雪は、日本とは違うサラサラの粉雪だった」
みなさんが楽しそうにそう話すのを聞いて、「自分が同じ場所を旅しても、きっとそのことには気づかなかったのではないか」と感じました。しかし、こうして体験談を共有してもらった今、私も海外の音響信号の音色に耳をすませたり、雪の質感を確かめてみたりすることができます。世界をグッと広げてもらったような気持ちでした。
ふたつ目は、「もっとできることがあるかもしれない」と思ったからです。私は今ライターとして、視覚障害だけではなく福祉全般について取材、執筆しています。取材をするなかで、当事者や関係者の方がよく口にする言葉がありました。それは「知ることから始めてみてほしい」という言葉です。私自身、「知ることが第一歩」だと記事に書くことが何度もありました。
ライターを始めて数年、「知る」を重ねた今、他にもできることがあるのではないかと考え始めたのです。そんなとき、「同行援護」の存在を知りました。スキマ時間を活用してできる仕事で、大学生や主婦、会社員、フリーランスなど、いろいろな方が活躍されていると聞き、ライターの仕事と両立しながら挑戦できるかもしれないと思えたのです。それに、取材だけではなく実際に現場を経験すれば、今より理解を深めた記事が書けるのではないかと考えたのもひと理由でした。
私はさっそく、同行援護従業者の資格が取れる研修に申し込んだのです。
駅を行き交うほとんどの人が、前を見ていない

私が受けた研修は3日間。9時〜17時まで、座学と演習を交えて学びました。
※注:研修の日数などは主催する事業所によって異なります。
講師は、実際に同行援護従業者として現場で働いている方が務めます。そのため講義は教科書通りではなく、先生方が実際に経験したトラブルや教訓をシェアしてもらえる貴重な時間でした。
基本的なことを学び終えると、隣の人とペアになり演習をしました。ひとりがアイマスクをつけ、もうひとりがガイドをするのです。室内での演習は問題なくできたのですが、研修会場の近くの駅に出向き、実際にエスカレーターに乗ったり、階段を上り下りしたり、電車に乗り降りしたりする演習は、本当に緊張します。
私たちが演習したのは比較的大きな駅だったこともあり、行き交う人がとても多く、ぶつかるのではないかとヒヤヒヤしました。なぜなら多くの人が歩きスマホをしていて、前を見ていないからです。私は「なんで前を見て歩かないの?」と憤り、そしてハッとしました。自分もふだん、歩きスマホをしていたことを思い出したのです。
視覚障害者の3割がホームへの転落経験あり
最終日の講義で、印象的なお話がありました。
「視覚障害者の3割がホームに転落した経験がある。転落しそうになった人も含めると7割にのぼる」というのです。その数字の大きさに驚き、こわくなりました。
歩きスマホをしていたら、自分がぶつかってケガをさせてしまう可能性だけではなく、ホームに転落しそうになっている人がいても気づけないかもしれない、とも思いました。
またこの話を聞いたとき、ふと思い出したことがあります。
数カ月前の上野駅構内。私はスマホで乗換案内のアプリを開き、次の行き先を検索しながら歩いていました。平日の昼過ぎで人があまりいなかったこともあり、前も見ずに、です。
すると前から歩いてきた見知らぬおじいさんに、「歩きスマホはやめろ!危ない!あんたみたいな人がいるから!」とすごい剣幕で怒られました。
周りに人はいなかったし、ぶつかったわけでもないのに、なんでそんなに怒るんだろうと、その時は思ってしまいました。けれど、おじいさんの言うことが正しいと今なら思えます。もしかしたらおじいさんには視覚や身体に何かしらの障害がある家族や知り合いがいたのかもしれません。もちろんそうではないかもしれませんが、怒られた理由をこうして想像してみることを私は放棄していました。

演習をした日の日記を見返すと、こう書いてあります。
「人の多さに関わらず、歩きスマホ(というか、周りを見ないでずんずん歩く行為)は本当に危険だ。自分が体験してみないとわからないとは、なんて傲慢なんだろう。二度と歩きスマホはしない」
ここに書いたことは、研修で学んだうちのほんの一部です。資格の申し込みをしたとき、正直「たった3日間で大丈夫だろうか」と不安を感じましたが、この3日間で学べたことは、両手いっぱいにありました。
講師の方も言っていたとおり、あとは現場で経験を積むのみです。次回のコラムでは、実際に現場デビューした日のことを綴ろうと思います。
Spotliteを運営している株式会社mitsukiでも、同行援護従業者養成研修を実施しています。
詳しくは以下のページをご確認ください。(※時期によって、講座の募集をしていない場合もあります)
アイキャッチ写真提供:白石果林
記事内写真撮影:Spotlite
執筆協力:白石果林