先日、一般社団法人PLAYERS(プレイヤーズ)が主催するオンラインワークショップ「視覚障害者からの問いかけ」に参加しました。
視覚障害者が健常者に対して質問を投げかけ、健常者が回答しながら対話を行います。
ワークショップに参加したレポートと発案者の中川テルヒロさんへのインタビューをお届けします。
一般社団法人PLAYERSとは
「一緒になってワクワクし 世の中の問題に立ち向かう」をスローガンとした、多様なプロフェッショナルからなるコ・クリエーションチーム。 社会が抱える様々な問題に対し、当事者との共創ワークショップを通じて、リサーチ・アイディエーション・プロトタイピングをアジャイルで実行します。 また、ヴィジョンに共感いただいた企業と連携し、社会実装を推進することで、問題を解決へと導きます。
一般社団法人PLAYERS HP
PLAYRESは、メンバー全員が本業を持ちながらプロボノとして活動しているそうです。
視覚障害者が安心して外出できる社会の実現を目指すプロジェクト「mimamo by &HAND(ミマモバイアンドハンド)」や、点字ブロックをアップデートする「VIBLO by &HAND(ビブロバイアンドハンド)」など、視覚障害に関するプロダクトやサービスも多数手がけています。
「視覚障害者からの問いかけ」は、PLAYERSのメンバーで自身も視覚障害者の中川テルヒロさんの発案で始まりました。
「視覚障害者からの問いかけ」とは
新感覚ダイアログワークショップ「視覚障害者からの問いかけ」は、視覚障害者と健常者によるオンラインワークショップです。 視覚障害者から投げかけられる「視覚障害者から告白されたらどう思う?」「朝起きて目が見えなくなっていたらどうする?」といった問いに、健常者が返答する形で対話をおこなっていきます。
視覚障害者からの問いかけについて深く考え悩みながら、自分の奥底にある心の声に耳を傾け言葉にしていくことで、障害者と健常者のあいだにある見えない壁や溝を実感し、新たな問いを持ち帰る機会を提供します。
視覚障害者からの問いかけHP
日本点字制定記念日である11月1日日曜日にトークイベントを開催した後、12月2日水曜日に、体験ワークショップを開催しました。
活動の趣旨をまとめた紹介動画がYouTubeで公開されています。
「視覚障害者からの問いかけ」に参加しました
実際に体験した流れに沿って、内容をご紹介します。
ワークショップは、18時30分~21時までの2時間半で行われました。参加者は、視覚障害者4名、健常者8名、合計12名でした。
中川さんが進行の元、最初に全員が自己紹介に行います。健常者は、メディア関係、イベント企画、医療従事者、福祉施設の職員など、様々な職種の方がいました。
座談会
視覚障害者3名がお話する様子を、健常者が聴講しました。
普段使っている便利なアプリや、健常者からよく受ける質問についてお話されていました。
「健常者から『どんな風に見えているの?』と、恐る恐る聞かれることがありますが、見え方を説明することは慣れているので、自然に聞いてもらって大丈夫です」と教えてくれました。
視覚障害者のリアルな生活を垣間見ることができ、少し距離が縮まった気がしました。
グループセッション
いよいよ、視覚障害者1名と健常者2名のグループに分かれて、視覚障害者からの質問に健常者が答えます。
「魅力があると思う障害者はどんな人?」という質問に対して、「障害のあるなしに関わらないかもしれませんが」という前置きのあと、「熱中していることや好きなものがある人は素敵だと思います」という回答がありました。
「数年付き合っているパートナーが突然、全盲になったらどうしますか?」という質問では、「流れに任せるかなと思います」という回答に皆、納得していました。
「見えない私に、東京都庁を説明してください」という質問には、「高いビルが2つ並んでいるようなイメージです」という外観の説明から、「中では東京都の職員が一生懸命働いています」という補足もありました。
私が最も印象に残ったのは、「障害者は、何かを頑張っている人が周りからすごいと思われるように感じます。障害を負うと皆、努力しなければいけなくなるのでしょうか?」という問いかけです。
グループセッションの終了直前に投げかけられた質問だったので、回答を伝えることができませんでしたが、私はすぐに言葉が思い浮かびませんでした。皆さんは、なんと答えるでしょうか。
振り返り
最後に、参加者の感想を全員で共有しました。一部をご紹介します。
- 中高生などの学生にも体験してほしい。
- 障害者との関わりは高みの見物になりがちだけど、私達が質問を受けるので緊張感があった。
- どんな質問をされるのだろうかと不安だったけど、楽しくてあっという間だった。
など、様々な感想がありました。私も1人の健常者として参加し、新鮮な体験ができました。私は普段から視覚障害者と関わる仕事をしていますが、今回のように視覚障害者から質問を受ける機会はほとんどありません。
あくまで「周りで関わる健常者」という一方的な視点しか持っていなかったに気付かされました。視覚障害者の気持ちを完全に理解することはできませんが、想像することはできます。他人事だと思わず、それぞれの立場で考える習慣ができれば、関わり方の新たなヒントが見つかるような気がします。
発案者インタビュー
発案者で進行を行う中川テルヒロさんに、ワークショップを始めたきっかけや大切にしている思いなどを伺いました。
略歴
1980年、奈良県生まれ。10歳から夜盲症が始まり、14歳で網膜色素変性症と診断される。徐々に視野が狭くなっていき、24歳で白杖を使い始め、続けて身体障害者手帳を取得。現在、左目は全盲、右目は矯正視力が0.2ではあるものの、中心の視野が晴眼者の1%しかない状態。
目が不自由ながらソフトウェアのエンジニアを15年続けており、一般社団法人PLAYERSの一員として、「視覚障害者からの問いかけ」の運営およびファシリテーターをおこなっている。一男一女の父親。
インタビュー
ー今回のワークショップを始めようと思ったきっかけを教えて下さい。
PLAYERSでは、これまで様々な視覚障害者向けのプロジェクトを行っていました。新型コロナウイルスが感染拡大した3月、4月以降、新しくできることを考える時、健常者が視覚障害者に対して困りごとをヒアリングしました。しかし、健常者がうまく質問できなかったり、障害者から十分に答えを引き出しきれないことがありました。そこで、視覚障害者側からも質問すれば、お互いに打ち解けることができ、新しい活動にもつながるのではないかと考えました。
ーどのようなプロセスで準備をされたのですか?
4月から9月まで毎月1回、PLAYERSの仲間でプレのワークショップを行い、内容をブラッシュアップしていきました。11月1日にプレスリリースと、YouTubeで公開するための動画撮影を行いました。今後も、毎月1回程度のペースで開催していきたいと考えています。
ー実際にイベントを開催して、どのような気づきがありましたか?
「自分は周りからどのように見られているのだろう」と気にしていたけど、健常者から「あまり気にしていなかった」という声を聞き、心が楽になったという視覚障害者がいました。
視覚障害者が健常者に対して抱いている思い違いや固定概念、自意識過剰という部分が、実はそうではなかったと気付くことができるいい機会になると思います。
ー自分の思いに気づくきっかけにもなるのですね。
視覚障害者は普段、質問されることが多く、受け身になることが多くなります。ワークショップでは、逆に視覚障害者が質問者になり、自分たちから話を振って場を作っていくことで、視覚障害者として新しい経験ができることがいいなと思っています。
ーワークショップの中で印象的だった言葉やエピソードはありますか?
健常者からのアンケートで、相反する2つの感想がありました。「視覚障害者と健常者の壁を感じず、フラットに話せた」という方がいた一方、「視覚障害者との違いや溝をとても感じた。それはネガティブな意味ではなくて、違いをはっきり意識できたからこそ、アプローチの仕方を考えられるようになった」という方がいました。それぞれ違った見方をしていますが、どちらも大切な気持ちだと思います。
ー確かに、どちらの感想もよく分かります。これからのワークショップにはどのような方に参加していただきたいですか?
健常者に何か聞いてみたいことがある視覚障害者は誰でも参加してほしいです。健常者は、街で視覚障害者を見かけたことがあるけどどうしたらいいか分からない方や、声をかけたけど正しい方法だったか分からないと感じている方に特に参加してほしいです。今後は、学校や企業での研修としても実施したいと考えています。
ーファシリテーションをする中で意識していることはありますか?
健常者は質問されることを心配していたり、視覚障害者は自分で質問していかなければいけないことを気にしていたり、参加者は皆さん緊張していると思いますので、話しやすい空気感を作ることを意識しています。その上で、誰かを置き去りにすることがなく全員が話せるよう、1人1人に話を振りながら進行しているつもりです。
ー中川さんは見えにくさがある中で、どのようにワークショップを進行しているのですか?
私は左目が全盲で、右目は視野の中心だけが見えています。そのため、進行中は参加者の名前やタイムテーブルを書いたテキストファイルを見ています。zoomの画面は操作する必要がないのでほとんど見ていません。その代わり、zoomのショートカットキーは一通り覚えています。
ーzoomの画面を見ずに進行されていたのですね。このワークショップで中川さんが1番伝えたいメッセージはどのようなことですか?
「視覚障害者も健常者に聞きたいことがある」ということを知ってほしいです。ワークショップの中で、健常者は答えのない質問を問いかけられると思います。正解を出したり解決してほしいわけではなく、自分ごととして考え続けることが大事だと思っています。そして視覚障害者に対する親近感が湧いてほしいです。結果的に、社会の中で健常者と視覚障害者の接点がもっと増えればいいですね。
ー健常者が自分ごととして考え続けることで、関係性が変わってくるのでしょうか。
私は、障害者が一方的に健常者に対して「~してほしい」と言い続けるのは苦手です。障害者から健常者にしてほしいことがあるのと同じで、健常者から障害者に求めることもきっとあると思っています。ワークショップで、そういう対話ができる場になればいいですね。その上で、健常者が「視覚障害者にもっと声をかけてみよう」と思ってもらえたら嬉しいですが、障害者の立場から「声をかけてください」と強制はしたくないと考えています。
ー中川さんがこれからやってみたい活動はありますか?
視覚障害者に対する固定概念がどんどん無くなるような活動を行いたいです。視覚障害者の私がオンラインワークショップの進行をすることに驚かれる方がいるかもしれません。
また、視覚障害者が何かをリードする機会がもっと増えていければいいなと思っています。PLAYERSが取り組むサービスの中でも、「ブラインドアテンダント」という役割で視覚障害者が健常者を道案内することを提案しています。視覚障害者がいつもサービスやサポートを受ける立場だけではなく、世の中に何か貢献し、健常者を導くことができればと思っています。
ー今、悩んでいる視覚障害者へ伝えられることはありますか?
目が不自由になるのは、本当はつらいことだと思います。活躍する視覚障害者の記事を読んで「視覚障害者でもがんばっている」と感じ、「自分はできてない」と捉えるとしんどくなると思います。世間では、障害者が頑張っている様子がこうしてメディアに取り上げられます。視覚障害になったばかりで悩んでいる人は、なかなか記事になりにくいですよね。今、悩んでいる方は、そのギャップに凹まないでほしいです。自分のペースで、自分の捉え方で、自分の1歩で進んでいくだけで全然いいと思います。
ー積極的に活動されている中川さんからの言葉だからこそ、説得力があります。
今では自分がワークショップを進行する立場になっていますが、白杖を持ち始めて障害者手帳を取得したころはこんなことができると全く思っていませんでした。目が見えないことに、ただただ悩んでいた時期もあります。時間が経てば必ずしも解決できるとは思っていませんし、人によって障害に慣れていくペースは違います。今でも目が見えないことのつらさがなくなっているわけではありません。「目が見えにくい」ということが常にあり続けるのは自分ごとながら大変です。だから、そんなにがんばらなくてもいいんじゃないかなと思います。
最後に
一般社団法人PLAYERSリーダーのタキザワケイタさんは、「コロナウイルスによって様々な活動がオンラインになったことで、
想定外の状況をチャンスと捉える柔軟な発想は、これからの全ての活動に欠かせないものだと感じました。
「視覚障害者からの問いかけ」で、様々な問いを自分ごととして真剣に考えることで新しい気づきが得られるはずです。
慣れない質問を受けることに抵抗があるかもしれませんが、中川さんの優しい人柄が伝わる進行で、自然と対話を楽しむことができます。
ぜひご参加ください。
お問い合わせ
「視覚障害者からの問いかけ」は、当面の間、定期的に開催される予定だそうです。
健常者、視覚障害者でそれぞれ申し込み方法が異なります。
詳しくは、こちら(外部リンク)の「視覚障害者からの問いかけ ホームページをご覧ください。
主催団体である一般社団法人PLAYERSのホームページは、こちら(外部リンク)です。