神奈川県を中心にガイドヘルパーとして活躍する下田ゆかりさん。交際相手が視覚障害になったことで同行援護の資格を取り、仕事として他の視覚障害者とも関わるようになったそうです。視覚障害者の恋人と支援者という2つの立場からお話を伺いました。
略歴
1985年神奈川県生まれ。警備業に10年以上従事していたが、28歳の時、交際相手が視覚障害者になったことをきっかけに、ガイドヘルパーの仕事を始める。同行援護従業者養成研修一般過程・応用過程修了。秦野市民吹奏楽団所属。
インタビュー
パートナーの見えにくさがきっかけで
ー現在の仕事や視覚障害者との関わりを教えてください。
現在は同行援護8割、警備2割くらいで仕事をしています。同行援護は視覚障害者の通院や通勤などの支援をするため、移動を共にしたり視覚情報を提供するサービスです。決まった曜日や時間で動いているわけではないので、月末に翌月の予定が決まります。同行援護は仕事ではありますが、「お互いに楽しく外出をしよう」という気持ちでやっているので、お堅い外出よりはちょっと遠出の依頼が多いですね。
ー視覚障害者と関わろうと思ったきっかけは何ですか?
28歳のときに、交際相手が目を悪くしました。突然、「視野の端っこが欠けてる」と言われて。最初は大したことだと思っていなくて、「早めに病院行きなよ~」なんて言ってたんですけどね。 糖尿病網膜症 で、1年くらいかけてどんどん悪くなって、気がついた時には1級の障害者手帳が取れちゃって。
彼ももちろんそうだと思うんですが、私もそこで人生変わりましたね。彼の目が段々見えにくくなっていく中で、好きだったバイクや車に乗れなくなって、仕事が出来なくなって、外に出られなくなって…というのを身近で見てきたので。「私に出来ることはなんだろう。見えなくなる不安の中で、何をしてあげられるんだろう。」と考え始めたことが、この世界を知るきっかけでした。そこから同行援護という資格を知って、一緒に上手に歩く方法を勉強するために講座を受講しました。
ー同行援護はどこでお知りになったのですか?
まだ同行援護という言葉すら知らなかったころ、役所に付き添って行ったときに、窓口の人から「ガイドさんですか?」と聞かれたことがありました。そのときに「ガイドってなんだろう?」と思ったんですよね。そのあと、Twitterで視覚障害者のガイドをやっているという人と知り合って、視覚障害者と一緒に外出するという仕事があることを知りました。そこでオススメの学校を教えてもらって講習に通い、資格を取りました。
ープライベートと仕事での違いや意識していることはありますか?
そうですね。仕事で一緒に歩いている時は、基本的に私の意見は言いません。食べたいもの、行きたいお店、やりたいこと、彼の意見を聞いて動くようにしています。知っている相手と歩いているからこそ、そこは気を付けています。
逆に、プライベートで一緒にいる時は私のワガママで連れ回すので(笑)
また、仕事中は出来るだけ丁寧な情報提供を心がけてはいます。安全な歩行は、仕事でもプライベートでも変わらないですね。プライベートだからって危険な歩行はしませんから(笑)
一緒に楽しむ
ー視覚障害者と関わる中で大切にしていることは何でしょうか?
特別意識していることはないですね。当たり前にここにあるものなので、身構えもしないし、障害者だと意識することもないです。ただ、やっぱり目は悪いので、目から入る情報を言葉で伝えたり、危ないことを教えたりっていうのは自然と身についています。ガイドヘルパーの中には、どうしても「~~をしてあげてる」って人がいるんですよね。お手伝いをする立場なので、「してあげている」というのは間違いではないんですけど、モヤモヤするというか。だから、私は「一緒に楽しむ。楽しみに連れて行ってもらっている。」という気持ちで関わっています。
ー具体的にはどんなところに行くのでしょう?
神奈川県平塚市に住んでいるのですが、都内に出て買い物をしたり、友人と会いに行くのに同行したり。「一泊旅行に付き添って欲しい。」という依頼もありました。一般的に同行援護は日常の買い物や通院に使われるケースが多いですが、私の場合は余暇活動での依頼が多いですね。また、彼と一緒に市民吹奏楽団に所属していて、練習やコンサートに参加することもあります。
ー吹奏楽の活動に参加する中で大変なことや気をつけていることはありますか?
「吹奏楽だから」ということはあまりないですが、楽器の配置や足元にあるものは意識して伝えています。
あと、練習場所が毎週のように変わるんです。駅から遠い場所もたくさんありまして。視覚障害があると、演奏中に指揮や楽譜が見えなかったり周りの音と合わないなど色々なストレスがある中で、往復の移動にまでストレスがかかれば続かないと思います。その点、同行援護で一緒に安全に移動できているのはいいことですね。
ー他にも多くの視覚障害者の方と関わられていると思います。視覚障害者と関わる中で印象に残っている出来事はありますか?
些細なことなんですけど、全盲の人に「テレビって、見る?聞く?なんて言うの?」って聞いたことがあります。多分、こんなこと普通のガイドヘルパーは気を遣っちゃって聞かないんだろうなぁ…と思いながら。でも、しれっと聞いたらしれっと答えてくれるかもしれないと、思い切って聞いてみました。
ー視覚障害者のお返事はいかがでしたか?
視覚障害者の方は、「テレビは見る」と言っていて、「そうなんだね。」みたいな感じであっさり話ができました。信頼関係があれば、私たちが勝手に壁を作らず、気になることは聞ければいいのかなと思います。あとは、晴眼者の私よりよっぽど器用に色んなことをやる人が多くて。なんというか、私も頑張ろうって思います(笑)
ーどんなことやる視覚障害者に会うのですか?
ネジとドライバーを使いこなして物を直したり作ったり、器用に包丁を使って料理する人もいます。私は見えていても出来ないので(笑)
そういう姿を見ていると、目が使える私はもっと工夫してやったら出来ることもあるんじゃないかなと思ったりします。
もっと身近に障害者がいたら。知る機会があったら。
ー視覚障害者が身近な存在だからこそ感じる、社会の中での違和感や偏見などはありますか?
やっぱり、社会の中でみんなが障害者に慣れていないという印象がありますね。一緒に歩いていると、「声をかけたい」と思ってくれている人がいるのは、よくわかります。例えば、電車乗っているときなんてわかりやすいですね。サッと席を譲ってくれる人もいれば、譲りたいんだけど声がかけられない人、突然寝始める人がいます。私は譲りたいんだけど声がかけられない人が、勿体ないなと思います。気持ちはあるのにどうしたらいいのか分からない。もっと身近に障害者がいたら。知る機会があったら。その人たちは、サッと譲れる人になってくれる人だと思います。
ーまずは知るということが大切なのですね。
そうですね。白杖を持っている人がスマホ見ていると、「ニセ障害者」だと思われるのも、結局は知らないからなんですよね。教えてくれる場所もありません。私も視覚障害者と関わるようになるまでどこでも教えてもらえませんでした。
テレビで取り上げられる視覚障害者や、学校の福祉授業としてのアイマスク体験の設定は、全盲であることが当たり前。そうじゃないんだよ、色んな見えにくさがあるんだよ、っていうことを多くの人に知ってほしいなと思います。
視覚障害者も含めて、障害者がもっともっと社会に当たり前にいる。インクルージョンの考え方が社会にも広がって欲しいですね。今はまだ視覚障害者と晴眼者の間に壁があるなと感じるのですが、東京オリンピックパラリンピックもあることなので、いいきっかけになってくれたらいいなと思います。
ーその壁を取り除くためにできることはあるのでしょうか?
晴眼者と視覚障害者が一緒に何かやる機会があるといいなと思っています。私の場合は視覚障害者と一緒に外に出て色々な場所に行くことで、その様子を見た人に「身近なところにも視覚障害者がいるんだな」ということを知ってもらうことにはつながるかなと思っています。だから、これからも仕事プライベート関係なく、色々な場所に視覚障害者と出かけていきたいですね。
視覚障害者の生の声が知りたい
ーこれからの目標や挑戦したいことはありますか?
偶然か必然かわかりませんが、せっかく出会った視覚障害。その世界を広げたいなと考えています。とにかくたくさんの視覚障害者の生の声が知りたいです。制度を変えたり世の中を変えたりという大それたことは考えていません。
まず目の前にいる一人の視覚障害者の手助けを。そこから繋がる周りの身近な視覚障害者の困り事を解決する手助けをする。そんな拠り所になったいけたらいいなと思っています。
ー視覚障害者との関わりに興味を持っている方へ伝えたいことはありますか?
視覚障害者は特別な存在ではありません。一人の人間として普通に接してもらいたいです。ただ、その中で視覚にハンデがあるので、指を指しても見えないとか、物を見せても見えないとか、目の前にある障害物や段差に気付かないとか、ちょっとしたことに気遣っていただければいいのかなと。でも、まずは難しいことを考える前に、少しでも多くの人が視覚障害者のことに興味を持って、関わる人が増えると嬉しいです。そうなると、視覚障害者が当たり前にいて一緒に活動するような世の中になっていっていくのかなと思います。