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街のお医者さんと大学病院。2つの立場で行うロービジョンケアとは? ~眼科医 翁長正樹先生~

おながファミリー眼科の入り口の画像。ドアにはかわいいイラストがある。

今回は、神奈川県横浜市にあるおながファミリー眼科の翁長正樹(おながまさき)院長にインタビューしました。

翁長先生は開業医として地域に根差した診療を行いながら、毎月1回、横浜市立大学病院でロービジョンクリニックの外来も担当しています。

街のお医者さんと大学病院、2つの立場からロービジョンケアを行う翁長先生に具体的な手順や診察中に意識していることを伺いました。

略歴

沖縄県生まれ。琉球大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院、藤沢市民病院、神奈川県立こども医療センター等に勤務したのち、追浜駅前眼科副院長を経て、2020年5月におながファミリー眼科を開院。日本眼科学会認定 眼科専門医、視覚障害者用補装具適合判定医。趣味はカーオーディオ。

インタビュー

ー翁長先生の今のお仕事について教えてください。
2020年5月、横浜市戸塚区でおながファミリー眼科を開院しました。この近辺には今まで眼科がなかったようで、地元の方からは感謝のお声をいただくこともあります。また、毎月1回、横浜市立大学病院のロービジョンクリニックの外来を担当しています。


ー翁長先生はいつからロービジョンケアを始めたのですか?
12~13年前、当時勤務していた横浜市立大学病院で「ロービジョンクリニックを担当しないか」というお話を頂きました。一般外来で診察している時から、見えにくさが進行した重症患者さんがたくさん来られることはありました。
しかし、一般外来は患者数が多く、1人当たり2~3分で診察しなければいけません。「見えにくい患者さんが何かに困っている」ということは分かりましたが、十分な時間が取れません。そこで、ロービジョンクリニックで一人ひとりの患者さんと丁寧に向き合いたいと思い、お話を引き受けました。

おながファミリー眼科が2階に入っているビルの外観を撮影した画像。

ーそれから10年以上、ロービジョンケアに携わってこられたのですね。
実はその間に4年ほど、地元の沖縄に戻ったことがありました。しかし、ロービジョンケアができず、自分の居場所がないと感じました。医者は、医局に属さなければ孤立してしまい、連携を取るのが大変です。仕事での充実感はあまりありませんでした。そこで、自分が入局している医局がある横浜に戻ることにしました。


ーよい診療を行うには、医師同士でお互い連携を取ることが大切なのですね。
そうですね。沖縄にいた時も、毎月1回飛行機に乗って、横浜市立大学病院のロービジョンクリニックは担当していました。横浜市立大学病院には、ロービジョンケアに精通した視能訓練士が在籍しています。また、私自身も神奈川ロービジョンネットワークの理事になるなど、医師だけでなく様々な専門職の方と幅広い連携が欠かせないと思います。


ーロービジョンクリニックではどのようなことを行うのですか?

一般外来の目的は、治療することです。どうすれば目の疾患を治せるか考えます。一方、ロービジョンクリニックには、一般外来で診察したあと回復する見込みの少ない患者さんが来られます。そのため、診察も行いますが、治療する前に、『本人はどのくらいの視機能があるのか。自分の見え方をどの程度理解しているか』を把握することを意識しています。その上で、本当にこれ以上治療できないかを考えます。


ー患者さんは、どのようなきっかけでロービジョンクリニックに来られるのですか?
以前は、眼科医からの紹介がほとんどでしたが、最近、患者さんが自分で調べて来られることも増えてきました。地元の眼科で「ロービジョンクリニックに行きたいので紹介してほしい」と言われるようです。少しずつ認知されてきたのかなと感じます。

診察室の壁にあるかわいい木のイラストを撮影した画像。

ー認知が広がってきたきっかけは何でしょうか?
日本眼科医会がスマートサイトの普及を図るなど、ロービジョンケアに力を入れてきたことは大きく影響していると思います。私の場合、日本網膜色素変性症協会(JRPS)から依頼を受けで難病講演会で講演したり、役所の福祉課に配属された新人職員向けの研修会で講義しています。様々な見え方を体験することで、具体的な困りごとをイメージするきっかけになればと思います。


ー患者団体や行政機関などで、幅広い啓発活動を行われているのですね。翁長先生は、どのように医師以外とつながりを広げられたのですか?

盲導犬協会や福祉施設、盲学校など、色々な施設へ見学に行きました。横浜市立大学病院の視能訓練士とは、「年に1回は施設見学に行きましょう」と話をしています。今後は、職業訓練を行う施設ともう少しつながりを持ちたいと思っています。


ーおながファミリー眼科でのロービジョンケアについて教えてください。

まだ開院して間もないのでそれほど件数は多くありませんが、ちょうど数日前、紹介状を持たずに、自分で調べて来た緑内障の患者さんがいました。「東京の病院で手術はしっかりやってくれたが、それ以降は経過観察というだけで何も話を聞いてくれない」とのことで、来院してくれました。


ー経過観察になると、大きな病院でできることは限られるのでしょうか。翁長先生は、どのような対応をされたのですか?

その患者さんは、身体障害者手帳も白杖も持っていませんでした。視力は0.6~0.7程度ありますが、視野が狭く「以前は、地方で車に乗っていたが、都会に来て病気が進行すると、駅で人にぶつかるようになった」とお話されました。今後視野検査を行い、身体障害者手帳を申請したり、白杖を購入する場合は福祉施設を紹介したいと思っています。

白杖を使って歩く視覚障害者の足元を背後から撮影したイメージ画像。

ーまさに1人ひとりの困りごととニーズに合わせた対応をされているのですね。
患者さんは「こんなに話を聞いてくれる先生がいるのだ」と安心してくれたようです。もし、私のクリニックで対応が難しくなれば、横浜市立大学病院のロービジョンクリニックで、改めて補装具などを紹介することもできます。今回の患者さんのように、見えにくさで困っているけど孤立している人が地域にはたくさん埋もれていると思います。


ー孤立している人が翁長先生のような先生につながれば、何かきっかけができそうだと感じます。

医師は治療をすることが目的なので、「自分は誇りを持って治すんだ」という先生がほとんどです。もちろん治療のために最善を尽くしますが、現在の医療では治せない疾患も存在します。そうした時に、医師としての敗北感を感じるのだと思います。でも、そこで終わりにするのではなく、もう1歩、ロービジョンケアを行っている眼科に患者さんを紹介してほしいですね。


ー翁長先生が患者さんと関わる時に意識していることはありますか?

私の根本にあるのは、患者さんの話を聞くことです。ロービジョンケアに限らず、「この患者さんは何で病院に来たのかな?何を求めているのかな?」ということを常に考えています。
患者さんの言いたいことと私が聞きたいこととのバランスを取りながら、適度に質問します。ロービジョンケアを経験する中で、「この視力と視野だったらこういうことに困っているのでは?」ということが想像できるようになりました。


ーロービジョンケアに関わることのやりがいは何ですか?

患者さんが満足して帰っていかれる姿を見た時はやりがいを感じます。一般外来では、短時間の診察になり、自分が何をされたのか分からないということがあるかもしれません。
私の場合、経過観察であっても、例えば「〇〇の数値が平均と比べて~~くらいだからこのままでよいです。これからも毎日目薬をしてください。次は〇週間後にお待ちしています」というように、診察内容を分かりやすく伝えるように意識しています。せっかく病院まで足を運んでくださった患者さんを納得しないで帰したくないですよね。見えにくさでお困りの方は、気軽にご相談ください。

机の上の遮光眼鏡を1つ撮影したイメージ画像。

ロービジョンケアの手順

翁長先生が行っているロービジョンケアの流れを教えてもらいました。

  1. ニーズの把握
    日常生活での困りごとや不安なこと、できるようになりたいことを確認します。

  2. 診察
    視力・視野などの各検査を行うとともに、本人の見え方に対する理解度を確認し、ご家族への説明を行います。その上で、まだ行っていない治療がないか検討します。


  3. 補装具の選定
    読み書きに困っている患者さんが多くいらっしゃいます。視能訓練士が患者さんの視機能に合わせて補装具を選定します。
    眼鏡、ルーペ、拡大読書器などを実際に体験して、選ぶことができます。
    また、眩しさを感じる方には遮光眼鏡を処方します。


  4. 身体障害者手帳、補装具申請書などの用意
    公的な福祉サービスを利用するために眼科医が用意すべき書類を用意します。

  5. 関連機関の紹介
    白杖を購入したい、仕事の相談をしたい、盲学校に通おうか悩んでいる、など、人それぞれ眼科では対応できない様々なニーズがある場合は、幅広い関係機関と連携しながら必要な施設を紹介します。

※個人のニーズや状況によって異なります。詳しくは直接ご相談ください。

最後に

おながファミリー眼科は、小児眼科外来も専門だそうです。扉や壁には可愛いイラストなどがあり、アットホームな雰囲気のクリニックでした。

翁長先生にお話を伺っていると、病気と向き合うというより、人と向きあっているという印象を強く受けました。
一人ひとり、患者さんの話をじっくり聞いて、納得するまで一緒に解決策を見つけてくれるという安心感があります。

ロービジョンケアに取り組む翁長先生のような眼科医が増えれば、誰もが暮らしやすい社会に近づくのかなと思いました。

(記事内写真撮影:渡辺敏之)

お問い合わせ

おながファミリー眼科(外部リンク)

横浜市立大学ロービジョンクリニック(外部リンク)

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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