「視覚障害者には色々な見え方の人がいる」と言われても、実際どのような見え方をしているかピンと来る人は少ないのではないでしょうか。
見え方をイメージするためには、専門的なゴーグルをかけるという方法もありますが一般的ではありません。
今回は、スマホやタブレットがあれば、誰でも無料でダウンロードできる「見え方紹介アプリ」をご紹介します。
見え方紹介アプリとは
弱視者問題研究会(以下、弱問研)が、2019年2月にリリースしたアプリです。
ぼやけの程度を変更したり、視野狭窄や中心暗点など、様々な見えにくさを紹介することができます。
スマートフォンやタブレット端末のカメラに映る景色を画像処理し、弱視者の見え方に近い映像にします。その映像を家族や友人、学校や職場で関わる方に紹介することで、見えにくさのイメージを相手と共有しやすくなります。
弱視者問題研究会
弱視の要因になる見えにくさをカメラの映像に合成することができるようになっています。
使い方
ダウンロード
iPhone・iPad
Android
ダウンロード終了後、アイコンをタップすると「見え方紹介アプリがカメラへのアクセスを求めています」(Androidの場合は「見え方紹介アプリに写真撮影と動画録画を許可しますか」)という警告メッセージが表示されますので、その画面右下の「許可する」をタップします。
カメラの映像が映ったら、初期設定は完了です。
操作方法
基本操作
画面を右にスワイプするとぼやけの程度が強くなり、左にスワイプすればぼやけの程度が弱くなります。
実際に操作した動画がこちらです。
色々な見え方
画面右下の「設定」をタップすると、下記の画面が表示されます。
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見え方設定の自動保存
オンにすると、アプリを閉じて次に開いた時、閉じる前の設定で表示します。 -
羞明・夜盲症の紹介
オンにすると、羞明もしくは夜盲が反映されます。 -
羞明・夜盲症の選択
羞明(明るいところが見えにくい状態)と夜盲症(暗いところが見えにくい状態)を選択します。 -
視野狭窄の紹介
オンにすると、視野狭窄が反映されます。 -
視野狭窄の選択
軽度から重度まで3段階で視野の広さを選択します。
それぞれ、視野が欠けている部分が黒と白から選べます。 -
中心暗点の紹介
オンにすると、視野狭窄が反映されます。 -
中心暗点の選択
軽度から重度まで3段階で中心暗点の大きさを選択します。
それぞれ、中心暗転の部分が黒と白から選べます。
設定が完了すれば、「閉じる」を押します。
色々な見え方を設定している場合もカメラの画面を左右にフリックすれば、ぼやけの程度が変化します。
実際に使ってみた
視野狭窄
軽度の視野狭窄(白)
「令和」と書かれた額は全て視野に入っています。
ただ、額を見ていると相手の顔や自分の足元は分かりません。
重度の視野狭窄(白)
「和」の文字しか見えていません。
「平和?」「昭和?」「令和?」もしかして「和」だけ?
上の様子を確認するためには、視線を動かさなければいけません。
中心暗点
軽度(白)
最もよく見える視野の中心部分がぼやけています。
中心から少し離れた箇所をうまく使えるような訓練が必要です。
開発者インタビュー
弱問研IT担当幹事で当アプリを開発された岸本様に、開発のきっかけやロービジョンの人が上手に使うコツ、今後の展望などを伺いました。
岸本様は、自身がロービジョンの当事者で、普段はフリーランスのエンジニアとしてアプリの受託開発や障害者向けのパソコンやスマートフォンの講習会を開催されています。
ー開発されたきっかけは何でしょう?
弱問研のメンバーでお互いの見え方を伝え合う時に、同じロービジョンの人同士でも分からないことが多かったんです。自分と同じような見え方だと思っていた人が、実は夜になるとすごく見えにくかったり、逆に意外と自分より見えていたこともありました。
晴眼者に説明するのはもっと大変で、私自身諦めていました。
例えば、「私の見え方は、3m先からマツコ・デラックスを見ると普通の人と同じに見えるよ。」と言っても、分かりにくい例えでは逆に戸惑ってしまいますよね。
「なんとか自分の見え方を正しく知ってもらう方法はないかな」と考え付いたのが、アプリにするという方法でした。
ーいつから開発を始められたんですか?
2018年の5月から制作を始めました。それまでに企画をしていた時期も含めると、約1年半で完成しました。
ーそれまで、見え方を伝えるために何か工夫はされていたのですか?
「見え方紹介カード」というのを作っていました。単語帳の大きいカードのようなものに、自分が見えやすい大きさの文字サイズを書いたり、「白杖を使っている」「単眼鏡を使っている」という項目にチェックを入れてもらい、自分の状況を伝えるものです。
評判だったのですが、再版するのに手間がかかることと、職場や学校に持って行くのが大変だったので、現在は製造を行っていません。
ーカードに代わるアプリということなのですね。開発する上で大変だったことはありますか?
2つありました。まずは、開発環境です。
プログラミングをする画面は文字が非常に小さいのです。その上で、画面の全てが見えているという前提で構成されているので、下の方に小さな文字でエラーが出ているのに気付かないこともありました。音声で読み上げ機能を使っても、次から次へと新しい情報が出てきて、全てを正確に把握するのは非常に難しかったです。
2つ目は、色々な見え方を細かく表現することです。スマートフォンのカメラは、遠くのものまで綺麗に映るように開発されたものです。それをぼやけさせるのは、技術的に苦労しました。
初めての試作を晴眼者に見てもらった時、「これってぼやけているの?」「言うほど大変じゃないんじゃない?」と言われて、「これはまずいぞ」と修正を加えました。
逆に、見えにくくなり過ぎて、「これじゃ何もできない」と思われるのも良くないので、ロービジョンの色々な見えにくさを正しく表現することが最も難しかったですね。
ーロービジョンの人が実際に使う上でのコツや気を付けることはありますか?
ロービジョンの方には、「自分が見て、ぼやけているか分からないギリギリの状態で見せてほしい」と伝えています。
私たちロービジョンの者は、既に見えにくさがあるので、アプリのぼやけが弱い段階では、画面がぼやけていることが分からないのです。ぼやけを少しづつ強くしていくと、どこかで画面がぼやけてきます。そのぼやけてきたと思うところが自分の見え方に近いところだという考え方です。
また、対象物との位置や距離を変えずに晴眼者に見せていただくことも大切です。
ーアプリをリリースして、反響はありましたか?
私の大学時代からの友人に最初に見せました。そうすると、「学生時代に階段を走って降りていたけど、大変なことをしていたんだね。」と言われて、なかなか身近な人でも伝わってないことを実感しました。
弱問研の他のメンバーは、会社の研修会で同僚に説明したら、「階段の近くにものを置くのはやめます」というように社内の理解も進んだようです。このように実際の職場などで役に立った事例を聞くと嬉しいですね。
ー今後の展望はありますか?
見え方のバリエーションを増やしく予定です。
例えば、今、中心暗点は真ん中に円形の見えにくさがあるだけですが、ドーナツ状に見えないなどのバリエーションを増やしたり、羞明や夜盲の程度を段階的に調節できるようにしたいと思っています。
ーこのアプリを通して、どのようなことを伝えたいですか?
アプリを使う上で大切なことは、晴眼者を驚かせつつも、悲観させてはいけないことです。「こういうことが困るから、こういう状況を整えてくれたら大丈夫。」ということを一緒に考えてもらうきっかけにしてほしいのです。
弱問研のコンセプトの1つに、「正確に知ってほしい」ということがあります。本人の見え方は本人しか分からないのですが、少しでも正しく理解してもらえれば嬉しいなと思います。
現在、日本にロービジョンの方は、最大160万人、少なくても25万人はいると言われています。でも、弱問研の会員は200人程度。もっともっと、アプリを通してロービジョンのことを知ってもらったり、弱問研の会員が増えればいいなと思っています。
お問い合わせ
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IT担当幹事 岸本様 メール:llcfrogworks@gmail.com - 弱視者問題研究会のWebサイトはコチラ
まとめ
同じ視力や視野でも、人によって見え方は異なります。
このアプリもあくまで参考と言えばそれまでで、視覚障害の全てが理解できることは決してないと思います。
しかし、視覚障害の代表的な見え方をイメージするためには欠かせないものだと感じました。
無料でダウンロードできるので、ぜひお試しください。このアプリをきっかけに、視覚障害者の生活にも関心を持っていきたいですね。