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「ボウリングは誰もが楽しめるスポーツ」視覚障害者と晴眼者が集った大会を現地レポートします

レーンを背景に撮影したチームの集合写真。向かって左から、尾形さん、井上さん、多和田さん、渡辺さん。

2024年9月21日(土)~22日(日)、東京都内にあるボウリング場「東京ポートボウル」にて、第21回全日本視覚障害者ボウリング選手権大会が開催されました。

初日は個人戦、2日目は晴眼者1名を含む4名チームで競う、インクルーシブチーム戦です。

Spotlite編集部は、2日目のインクルーシブチーム戦を取材。出場するA〜Jチームの10組のうち、全盲の井上直也さんの所属するEチームに密着しました。大会の様子をレポートしていきます!

Eチームメンバーのプロフィール

渡辺音彩(わたなべ・ねいろ)さん

高校生。晴眼者。インクルーシブチーム戦では、Eチームのリーダーを務める。小学2年生からボウリングを始め、ジュニアクラブに所属。東京都ジュニアボウリング大会など、国内の大会に多数出場。視覚障害者ボウリングは今回が初参加。

井上直也(いのうえ・なおや)さん

20代後半で視力低下を感じて病院に行き、網膜剥離による右目の失明が分かる。その後、左目も網膜剥離を発症し32歳で全盲になる。働いていた飲食店の店主の影響で、ボウリングを始める。現在はMDSiサポートとしてVoice Overを使ったiPhone・iPadの出張サービス、勉強会の講師や講演を行う。

尾形真実(おがた・まみ)さん

12年前に視力の低下を感じ病院へ行き、指定難病である黄斑ジストロフィーが発覚。現在の視力は0.02程度。モヤがかかったような見え方。4年前にボウリングを始め、現在は3つのリーグに所属。医療系の会社で事務職をしながら、週3日ボウリングをする。2025年1月開催の“IBF Para Bowling World Championships”では、金メダルを3つ獲得。ボウリングのほか、20年続けているバレーボールでは、クラブチームの代表を務める。

多和田まき(たわた・まき)さん

先天性の弱視。視力は両目0.2。ボウリング好きで選手権大会にも出場していた父の影響で、小学校1年生からボウリングを始める。看護助手として働きながら、週3日リーグ戦などに参加している。この日は沖縄から参加。

1フレーム交代で投球する「ベーカー方式」

スーツ姿の青松さんがレーンを背に、マイクの前に立ち、挨拶している。
全日本視覚障害者ボウリング協会会長の青松利明さん。

午前9時。開会式がスタートしました。主催者挨拶をするのは、一般社団法人全日本視覚障害者ボウリング協会会長の青松利明(あおまつ・としあき)さんです。

青松さんは、視覚障害者ボウリングについて次のように述べます。

「ボウリングは、ピンの大きさやレーンの長さなどのプレイ環境が常に一定であり、安定したフォームを身につけることで、スコアが向上します。また、ボールがピンを倒す音によって、爽快感を味わうことができます。そのような点で、ボウリングは視覚障害者にとって取り組みやすく、充実感の得られるスポーツです」

開会式が終わると、選手たちがそれぞれのレーンに移動します。

白地にカラフルな模様のウエア姿の井上さんがボランティアの高校生ガイドの肩に手を置いている。
ボランティアの高校生ガイドの誘導で移動する井上さん。

視覚障害者ボウリングは見え方の程度によって、B1、B2、B3の3クラスに分けられます。インクルーシブチームの編成は個人戦の結果により行われ、男女混合が原則。チームは視覚障害者3名と晴眼者1名です。

4名1チームで、2レーンを使用します。「ガイドレール」と呼ばれる手すりを使用する選手と使用しない選手が、異なるレーンで投球するためです。

ガイドレールの写真。物干しざおの様な棒状のパイプに、1m前後の高さのパイプ状の足が2本ついている、ボウリングのボールを重りとして足の下の方に設置している。
ガイドレールを使用できるのはB1、B2クラスの選手のみ。

Eチームでは、全盲の井上さんがガイドレールを使って投球します。視覚障害があるほか2名の投球は、晴眼者と変わりません。

競技は1フレーム交代で投球する「ベーカー方式」。6ゲームの総得点で順位を決定し、上位4チームが準決勝に進出します。

前半戦は4位!順位をキープできれば準決勝へ

数分間の投球練習ののち、前半3ゲームがスタート。井上さんのチームでは、メンバー4人が手を重ね合わせ、「おー!」の掛け声をかけ合いました。

トップバッターを務めたのが、高校生の渡辺音彩さん。なんと、いきなりストライクです!

選手のご家族や友人、ガイドヘルパーなど、観客席からの声援も大きく、会場が熱気に包まれました。笑顔でメンバーに走り寄る渡辺さん。チームメンバーが手を伸ばし、渡辺さんとハイタッチをします。

高校生の渡辺音彩さんがボールを投げる、後ろ姿
フォームが美しい、高校生の渡辺音彩さん。

多和田さんは「昨日の個人戦より今日の方が調子がいい」と、ストライクやスペアを出してチームを盛り上げます。

尾形さんは「今日の調子はイマイチです」と話し、思うような投球ができなかったようです。悔しさを噛み締めるような表情が印象的でした。

濃いピンクの模様が入った黒っぽいユニフォームを着た尾形さん。左胸には日の丸のマークがついている。
残ピンを前に、悔しさをにじませる尾形さん。

続いて、全盲の井上さんです。全盲の選手は、公平性を保つために目隠しをします。

井上さんのアシストをするのは、東京都ボウリング連盟のスタッフ。ボールのピックアップを補助してもらい、井上さんがガイドレールに手を添えます。腕の開き具合で立ち位置を決め、ガイドレールに触れながら助走をして、投球。

立ち位置を決める井上さんの後ろ姿。頭にはアイマスクのバンドがあり、背中のゼッケンに「101」と書いてある。
ガイドレールに手を添え、立ち位置を決める井上さん。
ガイドレールの横で、右手にボールを持ち右足を踏み出し助走を始めるアイマスクをした井上さん。
勢いよく助走をつけ、投球。

複数のピンが残りました。アシスタントに、どのピンが倒れ、どのピンが残ったか教えてもらいます。ピンには番号が付されていて、「3番と6番の間に当たり、7本倒れ、残りが1番、2番、4番です」などと教えてもらい、次の投球の軌道を考えるのです。ただし、投球動作時の介助や言葉による指示はできません。

黄色いジャンパーを着たアシスタントに、残ったピンを教えてもらうアイマスクをした井上さん。
ガイドヘルパーの経験がなくても、ピンの番号さえ覚えればアシスタントができるそう。

Eチームでは、ストライクが出れば「すごーい!」と拍手が起こり、思うような投球ができなくても「ドンマイ!」と、活気ある声が飛び交いました。

順調にゲームが進み、あっという間に前半戦が終了。3ゲームの総得点は451。井上さんチームの順位は、なんと4位でした!この順位をキープできれば、準決勝進出。後半戦に向けて、チームの熱気が高まりました。

後半戦の結果はいかに……!?

レーンを移動し、後半3ゲームがスタートです。投球練習が済んだ井上さんが、何やらアシスタントに耳打ちしました。リーダーの渡辺さんがその様子を見て、黄色い旗を掲げます。どうやらガイドレールの高さが合っていなかったようです。すぐに係員の方が来て、適切に調整してくれました。

改めて、後半戦がスタートします。

レーンに向かって、ボールを投げる多和田さんの後ろ姿。濃いピンクの模様のついた黒っぽいユニフォーム姿で、背中のゼッケンには352と書いてある。

マイクで会場を盛り上げる実況者の、「井上選手、見事なストライク!」という声に歓声が上がったものの、前半に比べるとスコアが下がり気味なEチーム。メンバーたちの悔しい表情が目立ちます。

ボールを投げ終わり、レーンの前で片膝をついている井上さんの後ろ姿。

最終ゲームのスコアは106と、心残りな結果となりました。

あっという間に後半戦が終了です。6ゲームの総得点は846。予選最終順位は6位となり、惜しくも準決勝進出を逃してしまいました。

ボウリングは、年齢や性別、障害の有無に関わらず楽しめる

その後、準決勝、決勝が行われ、予選では3位だったJチームが優勝しました。準優勝チームとの点差は、わずか11点。敗退したチームがみんなで見守る、まさに「手に汗握る」接戦となりました。

すべての試合が終了し、表彰に移ります。Eチームからは、個人戦で3位だった井上さんと準優勝した尾形さんが表彰台へ。メダルを首から下げ、大きく万歳する姿に会場からは大きな拍手が送られました。

レーンを背に、つないだ手を掲げ表彰台に立つ4人の写真。一番左が尾形さん。
レーンを背に、つないだ手を掲げ、表彰台に立つ3人の写真。一番右が井上さん。

その後行われた閉会式では、青松会長の言葉で締めくくられました。

「インクルーシブ戦は今年で3年目。年々レベルが上がり、今年も手に汗握る素晴らしいゲームでした。ベーカー方式を取り入れたことで、年齢や性別、障害の有無に関わらず、ともにひとつの目標に向かって競技できると示すことができました。ボウリングは誰もが楽しめるスポーツであることを、今後も社会にアピールしていきたいと思います」

レーンを背に、全参加者の集合写真。

最後に、Eチームのメンバーにインタビューを行いました。

鮮やかのオレンジ色の模様のユニフォーム姿で、満面の笑みで話す渡辺さん。

渡辺さん「私は東京都ボウリング連盟の方から推薦いただいたのがきっかけで、今回初めて視覚障害者ボウリングに参加しました。視覚障害者の方がどんなふうにボールを投げるのかもわからなくて、ガイドレールも初めて見ました。昨日の個人戦では、自分は出場せずサポートに回ったのですが、ボールの軌道や残ピンの伝え方が難しかったです。いざ言葉にしようとすると焦ってしまって、なかなか言葉が出てこなくて。今日のチーム戦は、みんなで盛り上げながら楽しめたので、最高でした!」

椅子に座って話す尾形さん。首にはメダルがかかっている。

尾形さん「今日は、メンバーの足を引っ張ってしまいました……。昨日の個人戦は調子が良くて2位を獲れたのですが、インクルーシブ戦では後半戦が全然ダメでした。自分のコンディションがさっぱりわからなくて、コースもわからないまま終わってしまいましたね。私、バレーも20年やっててバリバリ体育会系なんです。ものすごく負けず嫌いだから悔しいです」

椅子に座って話す多和田さん。

多和田さん「結果は残念でしたが、個人的には昨日よりは調子が良かったなと思います。昨日の個人戦では迷路に入ってしまって……投げたいところに投げているはずが、うまいことポケットに入らなかったのです。どう投げたらいいんだろう、と試合のなかで試行錯誤しているうちに、最後の最後、6ゲーム目くらいで『こう投げたらいいんだ!』という感覚がつかめました。その感覚を今日活かせてよかったです。インクルーシブ戦は会場全体で盛り上がれるのがメリットですね。こういったイベントが好きなので、声を上げてみんなのことを煽りながら試合に臨みました(笑)」

最後に

筆者は、視覚障害者ボウリングを初めて観戦しました。この日まで、ボウリングが「誰もに開かれているスポーツ」だという認識はありませんでしたが、ガイドレールとアシストさえあれば、障害の有無に関わらずみんなで一緒に楽しめるのだと知りました。しかし、ガイドレールがあるボウリング場は限られているのが現状です。青松会長の言うとおり、ボウリングが誰もに開かれたスポーツであることの認知が高まり、より多くの人が気軽に参加できる環境づくりが進むことを願っています。

視覚障害者ボウリングについて:一般社団法人全日本視覚障害者ボウリング協会(外部リンク)

取材・執筆・撮影:白石果林

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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