「皆が空 飛べたら私 障害者」
この川柳は、第1回のロービジョン・ブラインド川柳コンクールに寄せられた作品です。
今年で第5回を迎えるこのコンクールは、累計応募数が9,000以上、協力団体も40となり、多くの協力者の下、運営されています。主催する株式会社パリミキの担当者・神田信さんは、網膜色素変性症の当事者で、社内外で視覚障害の当事者活動に携わってきました。
今回の応募締切は、2023年1月31日です。締切が迫るコンクールについて、コンセプトや創設の経緯を神田さんにうかがいました。
※2023年2月1日追記:第5回は募集を終了しました。
ロービジョン・ブラインド川柳コンクールとは?
ーロービジョン・ブラインド川柳コンクールとは、どんなコンクールですか?
視覚障害にちなんだ川柳を募集しているコンクールです。特徴は、視覚障害の有無にかかわらず誰でもご応募いただけることです。当事者だけでなく、晴眼者の人も応募できるようにしていることで、広がりが出ていますね。世の中に視覚障害を啓発することも目的にしていますし、視覚障害者も、晴眼者がどんな風に思っているかを知るきっかけにもなります。
立場によって異なる「視覚障害のとらえ方」を、川柳を通じてお互いに知っていくというコンセプトなので、極端に言えば、街で視覚障害者を見かけただけの方も参加することができます。
応募フォームからお送りいただいた五・七・五の川柳とその解説をプロの先生に審査していただき、入賞作品を決めています。第5回は2023年1月31日が締切です。一度に5句までご応募いただけて、繰り返しのご応募も可能ですので、思いついたらぜひお気軽に送ってください。
応募フォーム
https://cbjb.f.msgs.jp/webapp/form/23688_cbjb_1/index.do
コンクールは、見えにくさを感じている方部門、メディカルトレーナー部門、サポーター部門があります。視覚障害の当事者の方は「見えにくさを感じている方部門」、医療従事者や訓練に携わる方は「メディカルトレーナー部門」、ご家族やガイドヘルパー、一般の方は「サポーター部門」に応募してください。そして川柳の解説も付けてもらっています。本来解説は不要なのだと思いますが、それぞれ立場が違うのでわかりやすくしています。
賞としては、「最優秀賞」「各部門賞」「NEXT VISION賞」に加え、今回は新たに「特別賞」「日本眼科医会賞(副賞なし)」を設けています。優秀作品は3月末に発表予定です。
40以上の団体・個人から協力を受けて続く川柳コンクール
ーロービジョン・ブラインド川柳コンクールが始まったきっかけを教えてください。
私は2010年頃から視覚障害者団体で活動をしています。そんななかで、公益社団法人NEXT VISIONさんから「神戸にVision Park(ビジョンパーク)という新しい場所を作るので、そこでイベントを開催しませんか?」とお声がけいただいたことが、コンクールの始まりでした。NEXT VISIONさんは視覚障害者がより自分らしく生きられるために活動している団体です。活動の一環として、2017年にVision Parkが作られました。この施設は「見えない・見えにくいことでお困りの方、一般市民の方、企業の方、医療、福祉、教育など様々な専門分野の方が集うことができる場所」で、垣根をなくして活動されています。
イベントで何をやるかと考えたときに、私が参加しているJRPS神奈川(日本網膜色素変性症協会)で当時、川柳をやっている人たちがいたことを思い出しました。川柳は五・七・五で気軽に詠むことができて、たくさんの人に参加してもらいやすいと感じました。全国から応募してもらう形式で、私の勤務先であるパリミキが主催し、NEXT VISIONさんに後援となっていただいています。
手探りで始まったコンクールでしたが、NEXT VISIONさんの後援のおかげもあり、無事に第5回となるコンクールを開催できています。ほかにも、今回後援に入っていただいた日本眼科医会さん、そして40の団体が協力してくださっています。協力団体は、視覚障害に役立つ情報提供や訓練、支援などを行う団体ばかりなので、ぜひ一度コンクールのウェブサイトをご覧いただきたいです。
ロービジョン・ブラインド川柳コンクール協力団体一覧ページはこちら
https://www.paris-miki.co.jp/lv-senryu/group.html
ー過去に受賞した作品を読むことはできますか?
コンクールのウェブサイトからご覧いただけます。第1回から第4回までの入賞・入選した川柳と解説を掲載しています。
応募いただいた川柳はどれも素晴らしい作品ばかりなので、本当は全部載せたいぐらいなのですが、これまで約9,000句の応募作品があるため、入選作品のみ掲載しています。
ーこれまでの応募作品の中で、神田さんのお気に入りの川柳を教えてください。
「皆(みな)が空 飛べたら私 障害者」です。眼科の先生が作ってくださった作品で、解説に「みんなが空を飛べたら、飛べない私は障害者でしょうか?空を飛べなくても、不自由を感じない仕組みがあればいいだけですが。」とありました。
みんなが飛べる世界では、おそらく階段もエレベーターもエスカレーターもなく、 各階に入口があるだけになるでしょう。しかし人間はみんな空を飛べないから、階段やエスカレーターがあります。
みんな飛べないから、飛べなくても移動できるよう配慮された環境が作られている。これと同じように、視覚障害者が困らないように社会のインフラがもっと整ってくれれば、視覚障害者が生きる上での不自由さは減っていきます。
これは障害の「社会モデル」と呼ばれます。「障害は社会が作っているものであり、目が見えない・見えにくいことで不自由する世の中に障害がある」という考え方です。「社会モデル」を初めて知ったときは、「そんな考え方があるんだ」と感銘を受けました。
これまで受けてきた恩を、次の人につなぐために
ー神田さんご自身も視覚障害の当事者です。どのような思いでコンクールを運営されていますか?
私は、大学を卒業してパリミキに入社した後に、網膜色素変性症と診断されました。20代のときは、将来のことはあまり考えたくありませんでした。当時は症状が軽かったため、将来目が見えなくなるかもしれないことを受け入れられていなかったのです。
診断から30年ほど経った今でも受け入れられない部分はありますし、どうしても「もし目が見えていたら」と考えてしまうことはあります。でも、これまでたくさんの人たちと出会って、「みんなも自分と一緒でがんばっているんだな」と共感できた経験がありました。視覚障害者やその周囲にいる人たちに救われてきて、今があるのです。
自分がかつてその人たちから受けた恩を、次の人たちにどうつないでいくかを考えていくうちに「せっかく見えないんだから、私に与えられた役割として視覚障害者のための当事者活動をしていこう」と思えるようになっていきました。
今この瞬間にも、目の病気の診断を受けて悩んでいる人がいるかもしれません。そういう人たちに「悩まないで」とは言いません。ちょっとでも共感し合えたり、困りごとを解消できたりして、スムーズに障害と向き合えるように尽力していきたい。そんな思いが、私の当事者活動の原動力であり、ロービジョン・ブラインド川柳コンクールにかける思いです。
ーロービジョン・ブラインド川柳コンクールへの応募を考える方たちへのメッセージをお願いします。
視覚障害にちなんだことを、あらゆる角度から川柳で表現してもらいたいです。日常生活のこと、コロナのこと、工夫していること、困っていること、良かったこと、未来への希望。何でもいいので、思ったことを川柳にしてほしいですね。
それが社会への発信につながり、「川柳によって視覚障害のことを知ることができた」と感じる人が少しでも増えればいいと思います。
もちろん、当事者の家族やガイドヘルパーの方、眼科の先生、街の人など、見える人たちにもぜひ気軽に参加してもらいたいです。それぞれの立場から思ったことを表現してもらうことに、このコンクールの意義があると思っています。
毎年冬にコンクールをやっているので、日々感じたことを表現した川柳を書き溜めてもらって、全部まとめて出してもらえたら嬉しいなと思います。社会のためにも自分のためにも、ぜひ気軽に応募してほしいです。
応募フォーム
https://cbjb.f.msgs.jp/webapp/form/23688_cbjb_1/index.do
取材を終えて
神田さんにお話をうかがう中で感じたのは「なんてアクティブな方なんだろう!」ということでした。
10年ほど前から始めたという当事者活動。障害者ボート競技(レガッタ)のチームに所属し、世界大会に出場した後、JRPS神奈川(公益社団法人 日本網膜色素変性症協会)、視覚障害の就労を考える認定NPO法人タートル、社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合(日視連)などに所属し、さまざまな活動をされています。
ロービジョン・ブラインド川柳コンクールに関しては、文化放送さんなどのラジオ番組に取り上げていただいたり、国連の方が主催するオンラインイベント「スナックあいこ」で視覚障害以外の方に向けて宣伝したりと、積極的に活動されているそうです。
にこやかに川柳のお話をされる姿からは、このコンクールと応募作品1つひとつを大切にされていることが伝わってきました。みなさんもぜひ、神田さんが熱意をもって携わるロービジョン・ブラインド川柳コンクールに応募されてはいかがでしょうか。