2025年6月上旬、都内で開かれたリレーマラソン大会に「みつきランニングクラブ」として参加しました。
みつきランニングクラブとは、私たちの会社「同行援護事業所みつき」の仲間が有志で参加する部活動のような取り組みです。今年から活動を始め、自主的に練習を行ったり、マラソン大会に参加したりしています。
今回のリレーマラソンは、1周1kmのコースを42周、チームでたすきをつなぐ形式で、みつきからは2チームが出場しました。視覚障害のあるメンバーも、ヘルパーも、運営スタッフも、それぞれのペースで完走を目指しました。
そのなかで、個人的に大きな節目となる出来事がありました。視覚障害者のランナー、三國さんと一緒に走ったことです。約10年ぶりの三國さんの伴走でした。
参考:トップページ | BOOSTランニングフェスタ in 味の素スタジアム
伴走やブラインドマラソンについて、以下の記事でもお読みいただけます。
「視覚障害があると、走ることがこんなに難しい」10年前の出会い

私が視覚障害者支援の世界に足を踏み入れるきっかけは、三國さんとの出会いでした。
10年前の当時、私は埼玉県所沢市にある国立障害者リハビリテーションセンター学院(通称「国リハ」)で、視覚障害者支援について学んでいました。卒業を間近に控えた頃、講師の先生から一通の手紙が届きます。そこには、「私の彼が視覚障害者で、伴走をしてくれる人を探しています」と書かれていました。
その彼が、三國さんだったのです。おそらく、私が運動が得意そうに見えたのだと思います。私は球技はそこそこ得意でしたが、走るのはまったく自信がありません。長距離に至っては大の苦手です。でも、そんなことを講師の先生は知る由もなく、私は三國さんの伴走をすることになりました。
練習当日。講師の先生と三國さんは、片道1時間以上かけて私の家の近くの大きな公園まで来て、練習後には近くのカフェでお昼ご飯をごちそうになったにも関わらず、肝心の練習はと言えば、目も当てられないような散々な内容でした。
すぐに息が上がって、スピードについていけなくなり、長距離ではなく、短距離ダッシュに変更してもらい、何とか終えました。期待に応えられなかったことが、情けなくてなりませんでした。
私たち健常者なら、走ろうと思えば、すぐに家の周りを走れます。しかし、三國さんは、奥さんがわざわざ手紙を書いて、1日がかりで移動して、お昼ごはんもご馳走したのに、練習相手を間違えて、ろくな練習ができなかったのです。
「視覚障害があるだけで、ただ走るだけのことがこんなに難しいのか」と衝撃を受けました。
それから、私は陸上経験のある知人を何人か紹介しました。私は、練習や大会には同行するなど、できる範囲でサポートを続けました。当時は同行援護という制度の存在も知りませんでしたが、いま振り返れば、あれが私の初めての同行援護だったような気がします。
その後、三國さんはメキメキと走力を伸ばし、一緒に走る機会はなくなりました。私はすっかり応援する側になっていました。
私が伴走を頼まれたときのことは以下の記事でもお読みいただけます。
伴走として一緒に大会出場。「視覚障害の方も走っているんですね」

それから10年の年月を経て、今年スタートした「みつきランニングクラブ」で三國さんと再び同じ大会に出場することに。私は2周、彼と一緒に走りました。
1周目、最初の約50メートルは10年前の記憶が少しよみがえりましたが、そんな余裕は一瞬でなくなりました。あとはただ苦しくて、なんとか走りきるのが精一杯です。2周目は少し休憩を挟んだにも関わらず、走り始めてすぐにキツくなり、走っている最中は三國さんとの思い出を振り返る余裕がありませんでした(笑)。
しかし、10年前と違っていたのは、走っていたのが自分たちだけではなかったことです。
これまで最長2kmしか走ったことがなかった女性の視覚障害者が5周以上を完走したり、3月の大会で3kmが限界だった20代の男性視覚障害者が、今回は15周近くを走ったり。それぞれが、自分のペースで、自分の限界を少しだけ超えるような挑戦をしていたのが印象的でした。
周囲からは「視覚障害の方も走っているんですね」といった声が聞こえてきたり、大会実況の方が「視覚障害者と伴走者のチームです」と何度も紹介してくださったり。視覚障害者が当たり前の存在として社会に溶け込むことに、大きな意味を感じました。

11月にも大会にエントリーします!目指せニューイヤー駅伝!?
次回の大会は、11月22日土曜日、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で開催されます。もちろんみつきランニングクラブもエントリー予定です。
参考:トップページ | BOOSTランニングフェスタ in Uvanceとどろきスタジアム
等々力陸上競技場は、2018年に事業所を始めた当初、私が暮らしていた場所のすぐ近くで、非常に思い出深い土地です。次は、ただ出場するだけでなく、視覚障害者の伴走についてより多くの人に知ってもらえるような企画を行いたいと考えています。
ちなみに、私は今でも走ることが好きではありません。1周1キロを全力で走る程度であれば、なんとか楽しめそうですが、次回は、応援に全力を注ぎます(笑)。それでも、人と一緒に走るからこそ得られる体験には、確かな価値があることを再認識しました。

ちなみに、自分が走るのは苦手ですが、駅伝やマラソンを見るのは大好きです。みつきランニングクラブの1つの目標は、10年後、ニューイヤー駅伝に出場することです(笑)。全国の実業団チームが集うあの舞台に、自分たちが立つ日が来るかもしれません(?)
視覚障害者も、晴眼者も、走る速さや得意不得意を問わず、「一緒に走ること」を楽しめる場をつくること。その延長線上に、社会の見え方や関わり方を少しずつ変えていく可能性があるのではないかと考えています。
「ちょっと走ってみようかな」と思った方、ぜひみつきランニングクラブでお待ちしています。たとえ1kmでも、一緒に走る一歩から、新しい景色が見えてくるかもしれません。いつか、皆様と一緒に走れる日を楽しみにしています。

記事内写真撮影:Spotllite
編集協力:株式会社ペリュトン