背景を選択

文字サイズ

施設・サービス

「盲導犬を利用しなくても、相談に来てください」歩行訓練や機器訓練も行う、日本盲導犬協会視覚障害サポート部の取り組み

盲導犬協会のポロシャツを着て椅子に座っている、笑顔の堀江さん。

日本盲導犬協会の事業は、実は盲導犬に関することだけではありません。盲導犬を育成する訓練部、情報発信を担う広報部などのほかに、視覚障害サポート部という部署があり、視覚障害者の相談を受け付けて、盲導犬利用に限らないさまざまなサポートを提供しています。

サポートの提供内容や、公益財団法人だからこその強みについて、視覚障害サポート部マネージャーで歩行訓練士・社会福祉士の堀江智子さんにお話を伺いました。

参考:日本盲導犬総合センター「盲導犬の里 富士ハーネス」(外部リンク)

芝生を囲むように、ガラス張りの通路が見える建物の外観。盲導犬をイメージした、大きな犬のぬいぐるみがおいてある。
富士ハーネスの外観(写真提供:盲導犬の里 富士ハーネス)

盲導犬の一生と訓練の様子については、前編の記事をご覧ください。
日本盲導犬協会・富士ハーネスを訪問しました。「視覚情報のサポート」という機能を超えた、盲導犬との豊かな共生を考える | Spotlite(内部リンク)

盲導犬の利用に限らないサポートを提供

「盲導犬は、きっかけでいいんです。盲導犬を利用しなくても、視覚障害に関することは何でも相談に来てください。『こういう調理グッズもありますよ』『こんなの使うといいかもね』と、テーブルにわーっと並べてお話しするところから始めることもありますね。『一緒に考えましょう』と伝えたいです」

ここは、日本盲導犬協会の富士ハーネス。富士ハーネスは、富士山の麓にあり、日本で唯一の常時見学ができる盲導犬訓練施設です。個人の場合、予約不要で開館時間であればいつでも訪れることができます。盲導犬は、一定の条件を満たした視覚障害者が無償で貸与を受けることができます。

堀江さんの所属する視覚障害サポート部は、視覚障害者の相談を受け付けて、盲導犬の利用に限らないサポートを提供しているのが特徴です。

堀江さん「意外に思われるかもしれませんが、日本盲導犬協会では犬の育成だけでなくて、視覚障害に関してできるだけ広範囲にフォローができるように事業を行っています。

例えばリハビリテーション訓練は、盲導犬と歩きたい方だけではなくて、白杖を使って歩きたい方にも歩行訓練を提供しています。そのほかにも、盲導犬を利用する利用しないに関わらず、料理や掃除など身の回りのことを一緒に練習することもあります。機器訓練では、スマートフォンやパソコンの操作など、情報取得や仕事のやり方をサポートしています。そしてお住まいの地域の関係機関につなぐなど、ハブのような役割も担います。

盲導犬を利用して歩行することは、生活のなかでは一部にすぎません。もちろん盲導犬の利用を案内することを選択肢のひとつとしながら、視覚障害サポート部では、生活全般のサポートを行っています」

室内で盲導犬のデモンストレーションをする、訓練士の久我さん
デモンストレーションをしてもらいました

ふらっと訪れて、ちょっと見てみて、軽く相談してみる

相談に訪れる方々には、多様な背景があります。

堀江さん「目が見えなくなってしっかりと相談したい方もいれば、『すごく困っているわけでもないんだけど』とふらっと立ち寄って私たちとつながる方もいます。なかには、ご家族が連れてきて『もう盲導犬を利用した方がいいんじゃないか』とお話しされる方、ご家族とご本人で孤立して10年以上経ってしまっている方もいらっしゃいます。また、私たちとしてもこの富士ハーネスにいて、みなさんと接しているなかで『ちょっと見えにくそうじゃない?』といった感じで見つけて、お声がけしたりします。

富士ハーネスはどなたでも常時見学できるので、視覚障害があってもなくても気軽に入って来られる場所です。いきなり視覚障害者の施設に予約して行って重たく相談するよりも、気楽だと思います。ご家族やご友人とふらっと訪れて、ちょっと見てみて、軽く相談してみる。そこからいろんなサポートを提供するきっかけになればと思います」

盲導犬の仕組みは、みなさんからの寄付によって成り立っています。このような募金箱を、ショッピングモールなどで見かけたことのある方、寄付をしたことのある方もいらっしゃるでしょう。

実物大の盲導犬の模型がおかれた、大きくてわかりやすい募金箱。
街でもよく見かける募金箱。盲導犬の仕組みは寄付で成り立っています(写真提供:盲導犬の里 富士ハーネス)

前編記事(内部リンク)で紹介したように、盲導犬の育成には多大な手間がかかり、ボランティアのパピーウォーカーなども協力しながら、盲導犬ユーザーへ貸与されていきます。盲導犬ユーザーに利用料などはかかりませんが、限りがあることも現実です。

堀江さん「盲導犬は、移動や外出の手段のひとつです。ただ、さまざまな手段があるなかで盲導犬はハードルが高いのも事実で、希望した方みんながすぐに利用できるわけではありません。

例えば白杖なら、購入後は当事者の意志で使ったり使わなかったり、買い替えたりもできますが、盲導犬は法律により盲導犬ユーザーに犬の管理が義務付けられています。それから、意外と目立つ存在なので、残念なことですが盲導犬ユーザーが気付かないうちに写真や動画に撮られてしまうこともあります」

一方的な情報提供だけでなく、自分で選び取れるように

取材中にデモンストレーションをする盲導犬。犬種はゴールデンレトリバー。
案内をする盲導犬

そこで、重要な役割となるのが視覚障害サポート部です。

堀江さん「メリットだけでなく、デメリットもきちんと知って盲導犬を利用する準備をしてもらうために、私たちは情報提供をし、選択肢を提示しています。歩行のプロフェッショナルではあるので、歩行の相談も大歓迎ですが、場合によってはもっと身近なところから取り組むような方も決して少なくはありません。

ただこちらから一方的に情報提供するのではなく、どんなことがしたいのかを丁寧に聞き取って、自分で選べるようにしていく。その段階がとても大切だと考えています。その結果として、『ここまでは自分でやりたいな』『目が見えにくくても元気にやっていこう』といった言葉を聞けると嬉しいですね」

満面の笑顔でお話している堀江さん。
視覚障害サポート部の堀江智子さん

「目の見えない人が、見えにくい人が、行きたい時に、行きたい場所へ。」

これは、日本盲導犬協会のパンフレット「盲導犬のこと、もっと知ってほしい」に書かれている言葉です。視覚障害者がとりあえずここに来たら、「なんとかなるかも」と少し安心できるかもしれません。どこに住んでいる人でもこの場所を利用することができるのです。

堀江さん「私たちは、自治体をまたいで支援ができるという特徴があります。一般的な行政サービスの支援や訓練では、お住まいの都道府県や市区町村の役所にアクセスする必要があります。ですが私たちは、どこにお住まいの方でも相談を受け付け、独自のリハビリテーションを提供することもできます。なぜなら、寄付をいただいて活動している公益財団法人だからです。

『飛行機に乗ってきたよ』とおっしゃる遠方の方もいますね。一緒に白杖を選んで、歩いてみたりするだけでなく、お住まいの自治体につなぐこともできます。気軽に遊びにきてもらえれば、盲導犬を選択肢のひとつに入れながら、、本人に合った支援につなげられるようにします。

視覚障害者のみなさんと接していると、『もっと早く知っておけばよかった』『どこで聞いたらいいのかわからなかった』と、何年経っても本当によく聞きます。自治体によって『補装具の支援はここで受けられる』『同行援護はここで』とわかりづらくなってしまうことが、どうしてもあるのです。私たちはいただいている寄付を十分に活用し、各所と連携しながら視覚障害者の生活をサポートしていくことが、公益財団法人である私たちの使命だと考えています」

富士ハーネスをご紹介します

直線的で明るい建物と、屋外の明るい芝生や訓練用の庭が見える外観写真。
富士ハーネスの外観

富士ハーネスは、視覚障害があってもなくても、常時見学することができます。設計を担当した建築家の千葉学氏は、以下のように記しています。

<この建物は、視覚障害者、犬、健常者など、様々な人に利用されます。そのためのユニバーサルデザインは、より身体的に、より感覚的に居場所を体感できるようなデザインとし、いわゆる福祉施設にありがちな佇まいを避けるように考えました。建物の平面から家具に至るまで、すべてを直角で構成しているのは、単にこの場所への応答としてではなく、視覚障害者が方向感覚を失わないための配慮です。また各部屋のすべての床の仕上げを異種素材にしているのは、自らの居場所を足裏の感覚を通じて把握できるようにするためです。>

引用元:日本建築家協会賞・「日本盲導犬総合センター」設計者:千葉 学 (有)千葉学建築計画事務所|公益社団法人 日本建築家協会(外部リンク)

この建築は2007年の日本建築家協会賞を受賞しました。障害の有無にかかわらず、すべての人を、総合的に受け入れることのできるこの建築にも、見学の際には注目してみてはいかがでしょうか。

そのほかにも、施設内は、さまざまな工夫がなされています。その一部をご紹介します。

男性トイレ内の様子。壁や床が黒く、洗面台は白い。
白黒で視認しやすくデザインされたトイレ
「このトイレはどうして黒いの?ロービジョンの方に見えやすいため」と書かれたボード。日本語と英語表記があります。
「このトイレはどうして黒いの?」と、デザインのねらいを解説しています
手書き風デザインで「富士ハーネスサポートショップ」と書かれた看板と、店内のグッズの様子。
館内にある「富士ハーネスサポートSHOP」では、各種サポートグッズやお土産が販売されています
「視覚障害リハビリテーションのご案内」の下に「山梨県の情報」「愛知県の情報」など地域別にチラシなどがおいてある様子。
全国のさまざまな地域の情報を提供しています
富士ハーネスで生まれた子犬たち。二匹がこちらに向かって歩いてきていて、奥の方には3匹が休憩スペースでくつろいでいる。
子犬たちが富士ハーネスで産まれ、育てられています(写真提供:盲導犬の里 富士ハーネス)
見学者の前で盲導犬のデモンストレーションをする、訓練士と盲導犬。
背景には階段状のブロックなどがある。
盲導犬デモンストレーションを見ることもできます(写真提供:盲導犬の里 富士ハーネス)

参考:日本盲導犬総合センター「盲導犬の里 富士ハーネス」(外部リンク)
※注:富士ハーネス見学の際、記事で紹介した全ての場所を見学できない場合があります。

盲導犬の一生と訓練の様子についても取材しています。下記のリンクから前編の記事をご覧ください。
日本盲導犬協会・富士ハーネスを訪問しました。「視覚情報のサポート」という機能を超えた、盲導犬との豊かな共生を考える | Spotlite(内部リンク)

取材・記事内写真撮影:遠藤光太(注釈のある写真を除く)

この記事を書いたライター

遠藤光太

1989年生まれ。ライター、編集者。26歳で自身が発達障害の当事者だと知ったことをきっかけに、障害全般、マイノリティ全般に関心を抱く。執筆分野は、社会的マイノリティ、福祉、表現、コミュニティ、スポーツなど。著書:『僕は死なない子育てをする』(創元社)。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

遠藤光太

1989年生まれ。ライター、編集者。26歳で自身が発達障害の当事者だと知ったことをきっかけに、障害全般、マイノリティ全般に関心を抱く。執筆分野は、社会的マイノリティ、福祉、表現、コミュニティ、スポーツなど。著書:『僕は死なない子育てをする』(創元社)。

他のおすすめ記事