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編集部から

視覚障害者の「移動の自由」を考える。ユーザー目線で、同行援護業界をアップデートしたい【代表コラム】

白杖の男性と晴眼者の男性二人が、都会の並木道を談笑しながら歩いている。

みなさん、電車の直通運転を利用されたことはありますでしょうか。

都心部であれば、各鉄道会社が相互に乗り入れを行っているため、鉄道会社が変わったとしても、わざわざ改札を出たり、電車を乗り換えることなく、スムーズな移動が実現できます。「来年、◯◯線と〜〜線の直通運転が始まります」というニュースを聞けば、「さらに便利になるのかな?」と胸が踊ります。

飛行機でも航空会社間の連合組織があり、利便性向上のため、相互に乗り入れを行っています。搭乗時、「スターアライアンス」「ワンワールドアライアンス」などのアナウンスを耳にしたことはないでしょうか。

鉄道でも飛行機でも、各運行会社が連携した直通運転は、あまりに当たり前の日常となっています。

私は、視覚障害者のガイドヘルパー派遣を行う「同行援護」という福祉サービスでも、この直通運転を実現していきたいと考えています。

なぜなら、現在の運用方法には、直通運転には程遠い多くの課題があると感じているからです。

同行援護の仕組みでは、視覚障害者が旅行しにくい現状

同行援護は、利用者ごとに1ヶ月間に利用できる時間が定められています。その時間内で、利用者は複数の事業所を利用できます。同行援護は、視覚障害者の外出を支える必要不可欠な制度なのですが、利用者目線でも事業所目線でも、事業所間の連携がとても取りにくいのです。

例えば、普段はA事業所の利用者が旅行に行く際、旅行先のB事業所を利用する場合を考えてみましょう。利用者は新たにB事業所と契約を結び、B事業所のルールに沿って依頼をし、サービスを利用します。

鉄道会社を例にすると、普段、東京メトロをよく使っている私が、「ちょっと日帰り旅行に行くためにJRを使いたい」という時に、わざわざJRに問い合わせて、契約書を取り交わし、乗りたい電車の連絡をして利用するようなものです。それでも鉄道は、毎日時刻通りに運行されていますので、もし契約が必要であったとしても、決まった時間にホームに行けば電車に乗れるでしょう。

しかし、同行援護の場合は、まず旅行先のB事業所が受け入れてくれるかどうかを確認し、さらに、希望の時間帯にヘルパーさんが見つかるかどうかの調整も必要で……というように、実際に利用するまでには数多くのハードルがあります。

同行援護事業所の男性が、机の上に紙をたくさん置いて、めくりながら確認している様子。

さらに事業所側も、事前の契約書のやり取りだけではなく、利用後も利用料のやり取りなど、膨大な事務作業が発生します。

そのため、事業所が事務作業の煩雑さやヘルパー不足などを理由に、旅行者の受け入れなどを制限しているという話も耳にします。また、利用の直前になればなるほど、契約や依頼の調整のための時間がなくなり、利用の難易度が急上昇します。

利用する事業所を増やすたびに、この作業が必要なのです。視覚障害者は「手続きが面倒だから、旅行はやめておこうかな」となりかねません。「この週末、急に予定が空いたから、現地のヘルパーさんに頼んで1泊2日で旅行しよう」ということが、きわめて難しいのです。

鉄道会社や航空会社とは違い、ガイドヘルパーは対人で支援をすること、障害者総合支援法という国の法律で定められた福祉サービスであることなど、もろもろの状況が異なるのは承知の上で、「この方法は、何とかならないものか」と日々感じます。

自社開発の「おでかけくん」を同業他社の業務効率化にも活かしてほしい

ここまで、現状の課題をつらつらと書いてきましたが、このままでは何も変わりませんので、自分なりに考えているアイデアを共有します。

私たちは今年7月、自社で開発した同行援護事業所向けの業務支援システム「おでかけくん」を他事業所向けに販売し始めました。

「おでかけくん」は、同行援護事業所、利用者、ヘルパーの3者が同行援護をより簡単で便利に利用と提供ができるようになるシステムです。初期費用やサポート費用はかからず、事業者は月額料金のみで利用できます。価格も10,000円からと、小規模な事業所でも導入しやすい設定にしています。

「おでかけくん」の主な機能は、同行援護の依頼登録と受託、実績の報告と確認、ヘルパーと利用者間のチャット、プロフィール管理などです。利用者、ガイドヘルパー、運営スタッフの三者がそれぞれの立場で利用でき、同行援護サービスの関係者すべてにとって、より便利で効率的なサービス提供を目指しています。

屋外で、白杖の人と、スマホを持っている人の手元。スマホの画面にはおでかけくんが表示されている。

もともと、自社の運営効率化のために開発した「おでかけくん」を社外向けにリリースする際、いろいろな経緯がありました。まず、そもそも他事業所に販売をする必要があるのかという議論です。

「同業者を助けることになるのでは?」「東京エリアでは展開しないほうがいい」「自分たちの強みがなくなってしまう」など、社内でも意見がありました。

しかし、最終的に他事業所向けに販売を行ったのは、「他の事業所も同様の課題で困っているのなら力になりたい。いいものはたくさんの人に使ってほしい」というシンプルな思いからです。その先に、鉄道の直通運転のような事業所間の連携を見据えています。

どの事業所の方と話していていても「マッチングを管理するのが大変」「国民健康保険団体連合会へ請求するときに1件ずつ手入力していて時間がかかる」という課題をよく聞きます。「おでかけくん」ではこれらの業務がWebから簡単にできます。それなら、他の事業所にも気軽に使ってもらって、運営が楽になれば、視覚障害者やヘルパーのみなさんにも喜ばれると考えました。

競合は当然、意識しなければいけませんし、他社と比較する中で自社を選んでいただくための戦略はもちろん大事です。それは理解した上で、最終的にどういう社会になればいいのかを考え、もっと同業者で情報共有しながら、切磋琢磨していく関係性を築きたいと思っています。

今、同行援護の市場は、全国で200億円前後です。事業所数は、全国で8,000ほどありますが、実際にサービスを提供しているのは5,000前後だと聞きます。また、この大半は他の介護サービスなどをメインで行っており、同行援護をサブ的に行っている事業所です。同行援護を事業の中心の事業にしている会社は全国で数えるほどしかありません。

このような状況で「おでかけくん」をどこまで活用いただけるか分かりませんが、賛否を含めて、まずは業界の中で、このようなシステムが利用できることが認知されれば嬉しいなと感じています。

そして、長期的には、「おでかけくん」を利用している事業所間での連携を深めていきたいのです。

同行援護は視覚障害者のインフラ。同業他社と協働できる点もあるはず

私の将来的な構想をご紹介します。

例えば、NPO法人として「日本同行援護連携協議会」のような法人をひとつ作ります。この法人でも同行援護を行う許認可は取得しますが、実際のサービス提供は行いません。全国の各事業所は、このNPO法人に加盟した上で、サービス提供を行います。

視覚障害者は、このNPO法人とのみ利用契約を行えば、加盟する事業所はどこでも利用できます。ヘルパーさんは、基本的に特定の事業所と雇用契約を行いますが、ヘルパーが希望すれば他の事業所でも働けます。

その際、「おでかけくん」を活用すれば、利用者、ヘルパー、事業所が行う一連の流れも統一できます。事業所間の連携も容易です。

そして、このNPO法人に加盟する事業所が増えれば増えるほど、「おでかけくん」を使う事業所が増えれば増えるほど、視覚障害者の移動の利便性は向上します。

最近、お世話になっている方のアイデアをお借りすると、最終的には、マイナンバーカードに同行援護の支給情報や利用履歴などを織り込めば、手続きも簡略化されるはずです。

ビル街にある公園で、白杖の男性一人と晴眼者の男性二人が笑いながらハンバーガーを食べている。

しかし、そのためには、国の政策なども関連してきます。すぐにどうこうできるものではありませんが、不可能ではないはずです。むしろ、時代の流れを考えれば自然ではないかと思います。

同行援護は、国が定めた福祉制度であるがゆえに、細かい懸念点や難しい点もたくさんあるでしょう。まだまだ勉強不足であるため、ツッコミどころ満載のアイデアで、できない理由だらけです。

私が言いたいのは、現状の方法に違和感を抱きながら、文句を言いながら、同じ方法を踏襲する運用をやめていきたいということです。現状維持に注力するのではなく、常に無理のない範囲のリスクを取って、新しい取り組みをしていきたいのです。

電車や飛行機が、社会の移動を支えるインフラになっているのと同様に、同行援護やガイドヘルパーも視覚障害者の移動を支えるという点では、インフラであるという視点も持てそうです。

そう考えれば、競合も全員仲間だと思っています。

競合同士、お互いに意識した施策を行いつつ、視覚障害者に関わる同じ事業をしている時点で、目指す方向はとても近いはずです。

現在、徐々にではありますが、「おでかけくん」は全国の事業所で導入や、お問い合わせをいただく機会が増えてきました。私たちは、「おでかけくん」をきっかけに、もっと同業者で切磋琢磨し、結果的に視覚障害者の生活や社会がより良い方向に向かえばいいなと思います。

いつか、全国の同行援護事業所で「同行援護事業所の相互乗り入れ・ガイドヘルパーアライアンスをご利用いただき、ありがとうございます」と言える日が1日も早く来るよう、一生懸命取り組みたいと思います。

緑の多い公園のベンチに座って、笑顔で話している白杖の人と高橋さん。

記事内写真撮影:Spotlite
編集協力:parquet

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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