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啓発

同行援護の利用時間には上限が。視覚障害者の私が新しい靴を買いに行くまで2年が経っていた。

芝生の上で、スニーカーの靴ひもを結んでいる手元の写真。そばに折り畳み式の白杖がたたまれた状態でおいてある。

東京23区内に住む視覚障害者の私は、パラスポーツに取り組んで毎週のように外出します。外出には福祉サービスの「同行援護」を外出の内容に応じて利用しています。

ある日、愛用のスニーカーが傷んできて、買い替えたいと思いましたが、結局2年間買いに行くことができませんでした。

福祉サービス「同行援護」を利用して外出

みなさんは、「新しい靴を買いに行きたい」と思ったとき、どうしますか?

休日にショッピングモールや専門店に出かけて、お気に入りの靴を探しに行くのではないでしょうか。

私は、新しい靴が欲しいと思ってから実際に購入するまで、2年の年月を要しました。

お金がないから?品切れだったから?

いいえ、違います。

靴を買いに行くことができなかったからです。

私は、視覚障害者です。望遠鏡から覗いたような見え方で、視野の中心のほんのわずかな部分だけが見えています。そんな私が外出する時には、電車の乗り換えやお店を見つけるのが難しいので、ガイドヘルパーを依頼します。

国が定めた福祉サービスの中に、「同行援護」というものがあります。「同行援護」では、視覚障害者が外出する際にガイドヘルパーを派遣してくれます。

同行援護については、以下の記事からお読みいただけます。

「同行援護」の1か月の利用時間は、制度をもとに自治体が決めている

同行援護は便利です。買い物に行ったり、映画を見に行ったり、イベントに参加したり、自分が行きたい場所へガイドヘルパーが同行し、私の目の代わりとして移動や情報提供のサポートをしてくれます。

しかし、ひとつだけ困ってしまう点があります。

1ヶ月に利用できる時間数が限られているのです。これは、国の制度を元に、各自治体が認定して決めています。私の場合は自治体から月に50時間の利用時間を支給されています。

1日の中での利用制限はないので、1回に何時間使ってもよく、1ヶ月の中でやりくりします。

例えば、1回5時間の依頼を10回頼んでもいいですし、10時間の依頼が5回でもいいのです。私は、パラスポーツに取り組んでいるので、さまざまな練習会やイベントへ参加します。そうすると、50時間はすぐに使い切ってしまいます。自分がどうしても行きたいものから優先的にヘルパーさんを依頼した結果、諦めている外出が毎月必ずあります。

日のあたる木製のベンチに腰かけている人の腰から下の写真。そばに折り畳み式の白杖がたたまれた状態でおいてある。

毎月毎月、外出の優先順位をつけて時間をやりくり

お気に入りの靴が古くなってきたのは、今から2年前。「そろそろ買い換えどきだな」と思いながらも、同行援護の時間数は毎月足りなくなります。

視野の狭い私がひとりで買い物に行くと、たくさんの商品を見渡すのに時間がかかり、好みの商品を選ぶのがとても大変です。パラスポーツの練習では、毎週8時間ほど同行援護を利用します。スポーツをやっていると、大会や練習などで、慣れない場所やはじめての場所に行くことも多く、どうしても同行援護が必要になります。

よく晴れた屋外で、首からタオルをかけているスポーツウェア姿の女性。右手に白杖を持っている。

大好きなスポーツを優先し、買い物を後回しにし続けた結果、2年が経っていました。

「ネットで買えばいいじゃないか」「少し別の用事を我慢して靴を買いに行けばいい」

そう思う方もいるかもしれません。しかし、新しい靴はやっぱり試着をしたいです。

もし、突然「来月から、あなたが1ヶ月で自由に外出できる時間は50時間です」と決められたら、生活が急に窮屈になるのではないでしょうか。

皆さんが、どうしてもやりたい大好きなことを諦め、我慢して時間を作り、その時間を利用して買い物に行かなければならないとしたら、どうでしょうか。

自分なりの優先順位を考えて、どうしても欠かせないものから50時間の範囲内で外出の計画を立てる生活が始まるでしょう。それがずっと、毎月毎月、続くのです。

個々の生活実態に合った支給時間があったなら…

欲しいものがあるときに、時間もお金もあるのに、買いに行けない。この、何とも言えないもどかしさを、私は常に感じています。

私が住んでいるのは、東京23区内のとある区です。時間数を増やしてほしいと自治体に何度も要望していますが、「この地域では皆さん一律で月に50時間です」と毎回言われます。

同行援護という福祉サービスのおかげで、ガイドヘルパーと一緒に色々な場所におでかけできています。このような制度が使えることには心から感謝しています。

視覚障害者も色々です。スポーツに積極的に取り組む人もいれば、買い物が好きな人、家で過ごすのが好きな人、読書が好きな人、映画が好きな人など色々な人がいます。だからこそ、自治体にも柔軟な対応をしていただき、個々の生活やニーズに合わせた時間数を支給していただきたいと思うのです。

私の経験を通して、同行援護の魅力と課題を1人でも多くの方に知っていただき、視覚障害者が気軽に楽しくおでかけできる社会になることを願っています。

新しく買った靴は、とても履きやすく、またリピートしたいと思っています。

次はネットで買おうかな。でも、ガイドヘルパーとおでかけして、新しい靴を一緒に選ぶのも楽しそう。今の靴がボロボロになるまでに、少しでも支給される時間数が増えたらいいな、と思っています。

白杖を持った女性とガイドヘルパーが、新緑の見える大通りで横断歩道を渡っている。

記事内写真撮影:Spotlite
※記事内の写真はイメージです。記事中の女性と写真の女性とは別の人物です。

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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