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啓発

タッチパネルが視覚障害者の新たな障壁に。「暗証番号が入力できず、買い物を諦めることも」

タッチパネルを操作している写真

コンビニやスーパー、飲食店の決済、商業施設のフロアガイドなど、街中にタッチパネルが増えています。タッチパネルは晴眼者にとって直感的に操作できる便利なツールですが、視覚障害者にとっては使いにくい、あるいは完全に利用不可能な“バリア”になってしまうのです。

実際、どのような場面で困るのか、そしてどのように対処しているのか、視覚障害者のご夫婦に伺いました。

誕生日ケーキを前にした手嶋さん語風の写真。
(写真提供:手嶋さん)

お二人のプロフィール

手嶋修一(てしま・しゅういち)さん
化学メーカーにてダイバーシティ推進を担当。21歳のときにレーベル遺伝性視神経症が発覚。現在の視力は、目の前の人の動きや光が判別できる程度。

手嶋千春(てしま・ちはる)さん
サイバーセキュリティの会社にて、マルウェアなどの解析や研究をするエンジニア。生まれつき右目が見えず、左目の視力は0.01。人の輪郭や色がわかる程度の視力。あたりが暗ければ、信号の色を見て渡ることも可能。

タッチパネルの難関は、クレジットカードの暗証番号入力

─普段よく使うタッチパネルデバイスはどのようなものですか?

修一さん
やはりスマホですね。スマホにはアクセシビリティ機能が備わっていて、画面上の文字を読み上げてくれるボイスオーバーや、音声入力などもあるので使いやすいデバイスです。

一方で、タッチパネルならではの不便さもありますね。たとえば、画像選択。インターネットのサイトでログインや決済をするとき、最後に「信号機の画像を選んでください」などと表示されることがありますよね。僕たちにはその画像が見えないので、たまに来てもらうヘルパーさんに頼むか、諦めるかのどちらかになります。

ソファに置かれた白い画面のタブレットとタッチペンの写真。
視覚障害者にとっては、写真のような真っ白な画面と同じことが起きている。(写真素材:Unsplash)

─最近は街中にもタッチパネルが増えましたが、普段の生活でタッチパネルに不便を感じることはありますか?

修一さん
もっとも困るのは、クレジットカードの暗証番号入力のような他人には任せられない作業です。ボタン式のところも多いですが、最近はタッチパネルのものが増えてきました。セキュリティのため番号がランダムに並び替えられてしまうものもあるので、僕たちには操作ができません。

千春さん
暗証番号は人に頼むわけにはいかないので、サインに変更してもらうか、現金または電子マネーに変更するか、買い物を諦めるかになってしまいます。

私はまだ利用していませんが、マイナンバーのパスワード設定もタッチパネルのところがあると聞きました。代理で誰かに入力してもらう場合もあるようですが、セキュリティが心配です。簡易的でもいいので音声ガイドをつけてもらいたいですね。

パソコンのキーボードの上に、ダイヤル式の錠前、クレジットカードが置かれている写真
(写真素材:Unsplash)

─他にはどのような困りごとがありますか?

修一さん
飛行機の座席の肘掛け部分に、CAさんを呼べるボタンがついているのをご存知ですか?以前からよく利用していたのですが、それもタッチパネルになっていて驚きました。CAさんを呼ぶときは、手をあげるしかなくなってしまいました。

千春さん
CAさんに気づいてもらえるまで手をあげ続けなくてはいけないので、少し恥ずかしいです。CAさんを呼ぶハードルが、グッと上がってしまった気がします。

私は、タクシーにもタッチパネルが導入されていたことに驚きました。運転手さんに「電子マネーで支払います」と伝えたら、座席近くのタッチパネルで支払い方法を選択するように言われてしまい……。運転手さんがわざわざ車を降りて、後ろに回って操作してくれたのですが、申し訳ない気持ちになりました。

モバイルオーダーを活用して一人飲みも

─お二人は、飲食店ではどのようにメニューを選んでいるんですか?

修一さん
席でメニューを選ぶ飲食店では、店員さんを呼んで説明してもらわなければいけません。それはタッチパネルでも紙のメニューでも変わりませんね。「何系がありますか?」「定食だとどんなのがありますか?」とカテゴリーで聞いてから決めています。タッチパネルの場合は、操作までやってもらいます。ただあまり時間をかけるのが申し訳ないので、じっくりとメニューを決めることができないのがネックです。

千春さん
私はラーメンやうどんが好きなのですが、入り口で食券を買うお店がほとんどなので、少し行きづらいと感じます。自分で食券を買って、トレイを取って、席を探して……となると、ハードルが高いです。

人が少ない時間を狙って行くと嫌な顔をせず対応してもらえるので、お店の構造や人が少ない時間帯を把握しておく、などの対策をしています。店員さんが券売機の近くで案内をしてくれているお店は入りやすいです。

レストランでメニューを指さして、店員にオーダーしている女性の写真
(写真素材:Unsplash)

─視覚障害者の方が入店しづらいという話を受けて、点字対応すると表明した飲食店もありましたね。

千春さん
それは良いことですね。ただ、視覚障害者はみんな点字を読めると思われがちですが、読める人はとても少ないんです。

─厚生労働省の調査で、点字を読める視覚障害者は全体の10%程度だと知り驚きました。

修一さん
僕も一応点字を読めますが、読むのがゆっくりなので時間がかかります。だからメニューを点字で読みたいとは思わないですね……。点字対応してもらっても、ごく一部の方向けのサービスになってしまうと思います。

─アクセシビリティを高めるためには、どんな支援やサービスがあれば良いと考えますか?

千春さん
私はときどき一人飲みに行くのですが、スマホで注文や決済が可能なモバイルオーダーを取り入れている居酒屋を選びますね。

メニューが表示されるサイトやアプリから、音声読み上げ機能でメニューを確認して注文できるので、自分のペースで食事ができます。

これまでは、お酒やおつまみを追加するたびに店員さんを呼んだり、いろいろお願いしたりして、毎回「すいません」と言わなければいけないことがストレスでした。そもそも、お店によっては呼び鈴がないところもあるので、店員さんを呼ぶこと自体に苦労する場合もあります。

一人でのんびり飲みたい私にとって、モバイルオーダーは画期的で、こんな機能があれば一人で何でもできそうだなと、視界が開けた気がしました。

ただモバイルオーダーは、音声読み上げ機能に対応していないこともあります。「カートに入れる」ボタンが読み上げられず、注文できないことがありました。今後のアクセシビリティ向上に期待しています。

コーヒーショップのカウンターの前でメニューを見上げているような男性の後ろ姿の写真
(写真素材:Unsplash)

「視覚障害者はタッチパネルが絶対使えない」という思い込み

─ご自宅や職場での困りごとはありますか?

千春さん
なぜわざわざタッチパネルのものを買ったのかわからないのですが(笑)、うちは電子レンジがタッチパネル式なのです。

あたため機能やタイマーなどがどこに表示されているかがわからないので、見える人に来てもらって手作りのガイドをつけました。タッチパネルの周りにテープで点字を貼って、どこに何が表示されるかわかるように工夫しています。

修一さん
前の職場は、執務室の入り口でタッチパネルにパスワードを入力しなければ入室できませんでした。会社に頼んで数字の横に凹凸のある印を貼ってもらい、それを頼りに入力していましたが、間違えることも多かったです。間違えたときは他の誰かが来るまで待つしかなくて困りました。

また、現在の家は宅配ボックスにタッチパネルが設置されていますが、鍵をタッチすれば荷物を受け取ることができるのが幸いでした。鍵やカードキーによる認証があると、とても助かります。

─話を聞いていると、あらゆる場所にタッチパネルがあふれていると実感します。タッチパネル技術を開発する企業担当者に伝えたいことはありますか?

千春さん
タッチパネルデバイスを作る際、そもそも視覚障害者の利用可能性が排除されてる気がします。

世間一般では、「視覚障害者はタッチパネルが絶対使えない」と思い込んでる人は多いのでしょう。「視覚障害者にスマホは使えない」と思っている人も少なくないと聞きます。私の両親でさえ、「スマホの画面はツルツルだから、あなたには操作できないよ」と言っていたくらいですから、仕方ないことなのかもしれませんが……。

まず、視覚障害があっても工夫次第でタッチパネルを使えることを知ってほしいです。それを理解していただいて初めて「タッチパネルを誰もが使えるようにするための工夫や配慮」を検討するフェーズにいけるのかなと思います。

修一さん
タッチパネルを誰もが使える機器にするために、視覚障害者が意見できるような場や実証実験などを用意していただけるとうれしいです。呼びかけがあったら喜んで参加する視覚障害者はたくさんいるはずです。ぜひ視覚障害者の生の声を聞いてもらいたいですね。

光る画面に人差し指を伸ばして触れている写真。
(写真素材:Unsplash)

アイキャッチ写真撮影:Spotlite