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「いつか1人暮らしを」そんな視覚障害者を応援したい、シェアハウスのようなグループホーム

グループホーム、イーハトーブの外観写真

千葉県習志野市で、視覚障害者支援を中心に訪問介護事業、障害者総合支援事業を運営する株式会社あじさい。そのあじさいが2021年、船橋市に視覚障害者向けのグループホームをオープンしました。施設の名称は入居者の皆様にとって“理想の暮らしを実現して欲しい”という想いを込めて「イーハトーブ」と名付けました。

視覚障害者の北原新之助さんと一緒に、見学と体験にうかがいました。

いつか1人暮らしをするときのために、あえて工夫をしすぎない

視覚障害者でも使いやすい音声対応の家電はほとんど使っていません」

こう語るのは、視覚障害者向けグループホーム「イーハトーブ」の運営会社である株式会社あじさいの代表取締役、澤瀨康子(さわせやすこ)さん。その理由は、将来1人暮らしをしたときのことを想定しているからだといいます。

「視覚障害者でも使いやすい音声対応の家電は高額なものもあり、障害年金や障害者雇用の収入では買えないこともあります。ですので、どこにでもあるような家電を中心に置いています」

イーハトーブで使用している電子レンジの写真。
目印となる右下のボタンにガイドのためのシールを貼っています。
イーハトーブ内のIHコンロの写真。
調味料類は、場所を決めてコンロわきに置いてあります。

イーハトーブには現在、男性3名、女性4名で合計7名の方が入居中。ほかの障害の方も一部入居していますが、原則として視覚障害者を優先して受け入れています。

澤瀨さんは、ご家族に視覚障害者がいます。そのこともグループホームを始めた理由のひとつでした。しかし、視覚障害に関わる様々な事業があるなかで、なぜグループホームだったのでしょうか。

「視覚障害者向けに新しい支援事業を始めたいと検討していました。視覚障害者向けの放課後デイサービスや就労移行支援事業なども考えましたが、視覚障害者が住む場所を探すときに、断られることが多くあるのを知っていたので、視覚障害者向けのグループホームにしようと決めました」

イーハトーブは2021年の10月にオープンした新築のグループホームで、建物はとても綺麗です。日勤と夜勤のスタッフさんが交代制で24時間いるので、困ったときはサポートをしてくれます。千葉県船橋市内の住宅街にあり、一見すると大きめの2世帯住宅のような造りです。

外回りの様子

イーハトーブ玄関の写真。
男性フロアと女性フロアは玄関が別になっています。
玄関前の点字ブロックの写真。
玄関から道路まで敷地内には点字ブロックを設置しています。
敷地内の庭に降りる階段の写真。
外の段差には黄色い目印があります。
盲導犬利用者も想定してちょっとした庭も用意しています。

共有スペース

共有スペース兼ダイニング・リビングの写真。
共有スペースは明るく、テレビなどもあります。

個室

個室の写真。
個室は十分な広さです。

広さは1人当たり約6畳。視覚障害者は電子機器をたくさん使う人が多いので、コンセントは一部屋に6〜8口と、多めに設置しました。

みんなでそば打ち体験!

私たちが訪問した日は、入居している皆さんの「そば打ち体験」の日でした。普段は男女でフロアを分けて生活していますが、この日は女性のフロアに希望者が全員集まってそば打ちを体験しました。

「そば粉の生地をそのまま焼いたらクレープになりそう」
「フランスでそんな料理がありましたよね」
「あら!私の出身地よ!」
「なに言ってるの、千葉県でしょ~」

スタッフさんと入居者さんが、フラットな関係で冗談を言い合いながら、生地を混ぜるところから本格的なそば打ち体験が進みます。

そば打ち体験の様子

共有スペースで、そば打ち体験をししている写真。
これからそば打ち体験開始です。
粉をふるう北原さんと、そばうち講師の先生の写真。
講師の先生が声をかけながら、粉をふるうところからスタートです。
順番に粉をふるう女性入居者さんと支援するスタッフの写真。
スタッフが、道具の使い方をサポートします。
綿棒を使って生地を伸ばす北原さんの写真。
「生地の形を整えるのが難しいです」と北原さん。
たたんだそば生地を切っている写真
晴眼者のスタッフが手伝いながら、なるべく自分でそばを切っていきます。
出来上がったそばの試食会の写真。
みんなで一緒に「いただきます!」

インタビュー「中途障害でつらい時期もあったけれど、今は自立したい」

入居者の嶋田さん「グループホームのイメージが変わった」

入居者の嶋田さんの写真。
入居者のひとり、嶋田さんにお話を聞きました。

―イーハトーブでの生活はいかがですか。

現在入居して約1年経ちました。今は歩行訓練を受けていて、まだ外出は1人ではできないのですが、日々練習しています。

外出だけでなく、家のことなど日常生活も含めて、習ったことを自分でできるように練習しています。自分で食材を買ってきてお昼ご飯を作ったり、洗濯をしたりもしています。

中学、高校にそれぞれ3年間通って卒業したように、あと2年で1人暮らしできるところまでいけたらいいな、と思っています。

以前、別のグループホームにいましたが、入居者が多くてプライベートなスペースが少ないところでした。また、視覚障害者だけではなかったし、年齢層も幅広く、自分の生活パターンには合いませんでした。ここはプライベートな時間もスペースも十分に取れます。また、共有スペースに行けばみんなで一緒にテレビのスポーツ観戦もできるので、楽しいです。

スタッフの皆さんも信頼できる方たちで、感謝しています。グループホームのイメージが変わりました。私は中途障害だったのでつらい時期もありましたが、今は自立したい気持ちが強いです。これからの姿を、これまでお世話になった方達に見てほしいと思っています。

スタッフの澤瀨さんと志水さん「何かをできるようになる姿が喜び」

あじさい代表取締役の澤瀨さんとイーハトーブ管理責任者の志水ゆみ子(しみずゆみこ)さんにうかがいました。

笑顔の志水さんと澤瀨さんの写真。
写真左が志水さん、写真右が澤瀨さん

―イーハトーブの入居条件はありますか。

障害者手帳と障害福祉サービス受給者証を交付されている方で、ご本人の意志があり、スタッフや他の入居者さんとコミュニケーションをとれる方なら、基本的にほかの条件はないです。住民票を移さなくても入居できます。ただ、歩行訓練などの福祉制度を使うのに千葉県の制度を使うので、県外の方だと手続きが大変な場合はあります。

ー運営されている中で、嬉しいのはどんなときですか?

皆さんの笑っている声が聞こえるときが一番嬉しいです。

あとは、できなかったことができるようになったのを感じたときです。
ここは交通の便があまりよくないので、最寄りの私鉄駅までは歩くと25分ほどかかります。一番近いバス停までも坂道や階段があるので、入居者さんが就労先に通うとき、バス停までは朝夕付き添っていました。でも今では、歩行訓練を受けて電車やバスを使って1人で帰ってこられるようになった方もいます。

朝も、大通りの横断歩道に音響信号がないので、そこまでは同行していますが、そのあとは皆さん1人で行けるようになりました。音響信号は、警察に設置の要望は出したのですが、残念ながら「十字路ではないので設置ができない」という回答でした。

ーイーハトーブのアピールポイントはありますか?

食事がおいしいと言ってもらえることが多いです。朝晩の食事は、ホーム内のキッチンで世話人さんが手作りしています。


ただ、皆さんが食べ過ぎてしまうようで、「ここにきて体重が増えた」と言われてしまうこともあります。内臓の疾患がある人もいるので、少しおかずの量を見直したりしながら工夫しています。

また、干渉し合わないのもいいところですね。「困ったら言ってね」というスタンスで、こちらから色々聞いたりすることはあまりしないです。

入居者さんにやりたいことがあるときや必要な生活訓練を受けたいときは、千葉県や船橋市の福祉制度で何ができるか情報提供をしたり提案したりもします。

ーずっと入居するのではなくて、1人暮らしをしたときのことを考えるというのが、意外に感じました。

自分の居場所を作って自由に暮らしてほしい、それを世話人がちょっとお手伝いする、というスタンスでやっています。

ずっと住んでいたい方は、勿論そのまま住んでいても構わないんです。でも1人暮らしができるようになってくれたら、私たちはすごく嬉しいです。どちらも応援したいです。

1人暮らしに向けては、お米のとぎ方やトイレ掃除、食器を洗って片付ける……といった日常のことを教えて、できる人はどんどん1人でやっています。

取材を終えて

ー今回、視覚障害者の北原さんも一緒に訪問しました。いかがでしたか?

北原さん 入居者は若い障害者の方が中心で、グループホームというより「視覚障害者向けのシェアハウス」という印象でした。プライベートなスペースも十分にあって、1人の時間も確保できるのがいいですね。現代のニーズに合っているなと感じました。


将来の1人暮らしを応援しているというお考えもよかったです。こういう場所がもっと増えてくれたら、すごくいいなと思いました。

株式会社あじさいWebサイト(外部リンク)
イーハトーブWebサイト(外部リンク)

取材協力・執筆:aki(parquet)
取材・写真撮影:Spotlite

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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